『心象スケッチ 春と修羅』

□オホーツク挽歌
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 そつと見てごらんなさい
 やなぎが青くしげつてふるえてゐます
 きつとポラリスやなぎですよ
おお満艦飾のこのえぞにふの花
月光いろのかんざしは
すなほなコロボツクルのです
  (ナモサダルマプフンダリカサスートラ)
Vant Hoff の雲の白髪の崇高さ
崖にならぶものは聖白樺
セントペチユラアルバ

青びかり野はらをよぎる細流
それはツンドラを截り


────────


   (光るのは電しんばしらの碍子)
夕陽にすかし出されると
その豪烽フ草の葉に
ごく精巧ないちいちの葉脈
   (樺の微動のうつくしさ)
黒い木柵も設けられて
やなぎらんの光の点綴
 (こゝいらの樺の木は
  焼けた野原から生えたので
  みんな大乘風の考をもつてゐる)
にせものの大乘居士どもをみんな灼け
太陽もすこし青ざめて


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