『心象スケッチ 春と修羅』
□オホーツク挽歌
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その背のなだらかな丘陵の鴇いろは
いちめんのやなぎらんの花だ
爽やかな苹果青りんごせいの草地と
黒緑とどまつの列
(ナモサダルマプフンダリカサスートラ)
五匹のちいさないそしが
海の巻いてくるときは
よちよちとはせて遁げ
(ナモサダルマプフンダリカサスートラ)
浪がたひらにひくときは
砂の鏡のうへを
よちよちとはせてでる
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樺太鐵道
やなぎらんやあかつめくさの群落
松脂岩薄片のけむりがただよひ
鈴谷山脈は光霧か雲かわからない
(灼かれた馴鹿の黒い頭骨は
線路のよこの赤砂利に
ごく敬虔に置かれてゐる)