『心象スケッチ 春と修羅』

□風景とオルゴール
9ページ/24ページ


電燈はよほど熟してゐる
風がもうこれつきり吹けば
まさしく吹いて来る劫
カルパのはじめの風
ひときれそらにうかぶ暁のモテイーフ
電線と恐ろしい玉髄
キヤルセドニの雲のきれ
そこから見當のつかない大きな青い星がうかぶ
   (何べんの戀の償ひだ)
そんな恐ろしいがまいろの雲と
わたくしの上着はひるがへり
   (オルゴールをかけろかけろ)
月はいきなり二つになり
盲ひた黒い暈をつくつて光面を過ぎる雲の一群


────────


   (しづまれしづまれ五間森
    木をきられてもしづまるのだ)



風の偏倚


風が偏倚して過ぎたあとでは
クレオソートを塗つたばかりの電柱や
逞しくも起伏ずる暗黒山稜
あんこくさんりよう
  (虚空は古めかしい月汞
げつこうにみち)
研ぎ澄まされた天河石天盤の半月


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ