『心象スケッチ 春と修羅』

□風景とオルゴール
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爽かなくだもののにほひに充ち
つめたくされた銀製の薄明穹
はくめいきう
雲がどんどんかけてゐる
黒曜
ごくやうひのきやサイプレスの中を
一疋の馬がゆつくりやつてくる
ひとりの農夫が乘つてゐる
もちろん農夫はからだ半分ぐらゐ
だちやそこらの銀のアトムに溶け
またじぶんでも溶けてもいいとおもひながら
あたまの大きな曖昧な馬といつしよにゆつくりくる
首を垂れておとなしくがさがさした南部馬
黒く巨きな松倉山のこつちに


────────


一點のダアリア複合体
その電燈の企畫
プランなら
じつに九月の寳石である
その電燈の献策者に
わたくしは青い蕃茄
トマトを贈る
どんなにこれらのぬれたみちや
クレオソートを塗つたばかりのらんかんや
電線も二本にせものの虚無のなかから光つてゐるし
風景が深く透明にされたかわからない
下では水がごうごう流れて行き
薄明穹の爽かな銀と苹果とを
黒白鳥のむな毛の塊が奔り


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