『心象スケッチ 春と修羅』

□風景とオルゴール
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   おれの崇敬は照り返され》
沼はきれいに鉋をかけられ
朧ろな秋の水ゾルと
つめたくぬるぬるした蓴
じゆん菜とから組成され
ゆふべ一晩の雨でできた
陶庵だか東庵だかの蒔繪の
精製された水銀の川です
アマルガムにさへならなかつたら
銀の水車でもまはしていい
無細工な銀の水車でもまはしていい
   (赤紙をはられた火薬車だ
    あたまの奥ではもうまつ白に爆發してゐる)


────────


無細工の銀の水車でもまはすがいい
カフカズ風に帽子を折つてかぶるもの
感官のさびしい盈虚のなかで
貨物車輪の裏の秋の明るさ
  (ひのきのひらめく六月に
   おまへが刻んだその線は
   やがてどんな重荷になつて
   おまへに男らしい償ひを強ひるかわからない)
 手宮文字です 手宮文字です
こんなにそらがくもつて來て
山も大へん光つて青くくらくなり
豆畑だつてほんたうにかなしいのに


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