『心象スケッチ 春と修羅』
□風景とオルゴール
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雲はあらはれてつぎからつぎと消え
いちいちの火山塊ブロツクの黒いかげ
貞享四年のちいさな噴火から
およそ二百三十五年のあひだに
空氣のなかの酸素や炭酸瓦斯
これら清洌な試薬によつて
どれくらゐの風化が行はれ
どんな植物が生えたかを
見やうとして私わたしの來たのに對し
それは恐ろしい二種の○で答へた
その白つぽい厚いすぎごけの
表面がかさかさに乾いてゐるので
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わたくしはまた麺麭ともかんがへ
ちやうどひるの食事をもたないとこから
ひじやうな饗應きやうおうともかんずるのだが
(なぜならたべものといふものは
それをみてよろこぶもので
それからあとはたべるものだから)
ここらでそんなかんがへは
あんまり濳越かもしれない
とにかくわたくしは荷物をおろし
灰いろの苔に靴やからだを埋め
一つの赤い苹果りんごをたべる
うるうるしながら苹果に噛みつけば