『心象スケッチ 春と修羅』
□風景とオルゴール
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いつかぽけつとにはいつてゐるし
はやしのくらいとこをあるいてゐると
三日月みかづきがたのくちびるのあとで
肱やずぼんがいつぱいになる
鎔岩流
喪神のしろいかがみが
薬師火口のいただきにかかり
日かげになつた火山礫堆れきたいの中腹から
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畏るべくかなしむべき砕塊熔岩ブロツクレーバの黒
わたくしはさつきの柏や松の野原をよぎるときから
なにかあかるい曠原風の情調を
ばらばらにするやうなひどいけしきが
展かれるとはおもつてゐた
けれどもここは空氣も深い淵になつてゐて
ごく強力な鬼神たちの棲みかだ
一ぴきの鳥さへも見えない
わたくしがあぶなくその一一の岩塊ブロツクをふみ
すこしの小高いところにのぼり
さらにつくづくとこの燒石のひろがりをみわたせば
雪を越えてきたつめたい風はみねから吹き