『心象スケッチ 春と修羅』
□風景とオルゴール
20ページ/24ページ
幻聽の透明なひばり
七時雨ななしぐれの青い起伏は
また心象のなかにも起伏し
ひとむらのやなぎ木立は
ボルガのきしのそのやなぎ
天椀てんわんの孔雀石にひそまり
薬師岱赭やくしたいしやのきびしくするどいもりあがり
火口の雪は皺ごと刻み
くらかけのびんかんな稜かどは
青ぞらに星雲をあげる
(おい かしは
てめいのあだなを
────────
やまのたばこの木つていふつてのはほんたうか)
こんなあかるい穹窿きうりうと草を
はんにちゆつくりあるくことは
いつたいなんといふおんけいだらう
わたくしはそれをはりつけとでもとりかへる
こひびととひとめみることでさへさうでないか
(おい やまのたばこの木
あんまりヘんなおどりをやると
未來派だつていはれるぜ)
わたくしは森やのはらのこひびと
芦よしのあひだをがさがさ行けば
つつましく折られたみどりいろの通信は