『心象スケッチ 春と修羅』
□風景とオルゴール
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過去情炎
截られた根から青じろい樹液がにじみ
あたらしい腐植のにほひを嚊ぎながら
きらびやかな雨あがりの中にはたらけば
わたくしは移住の清教徒ピユリタンです
雲はぐらぐらゆれて馳けるし
梨の葉にはいちいち精巧な葉脈があつて
短果枝には雫がレンズになり
そらや木やすべての景象ををさめてゐる
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わたくしがここを環に堀つてしまふあひだ
その雫が落ちないことをねがふ
なぜならいまこのちいさなアカシヤをとつたあとで
わたくしは鄭重ていちようにかがんでそれに唇をあてる
えりおりのシヤツやぼろぼろの上着をきて
企らむやうに肩をはりながら
そつちをぬすみみてゐれば
ひじやうな悪漢わるものにもみえやうが
わたくしはゆるされるとおもふ
なにもかもみんなたよりなく
なにもかもみんなあてにならない
これらげんしやうのせかいのなかで