『心象スケッチ 春と修羅』
□風景とオルゴール
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ちぢれて悼む 雲の羊毛
(三角さんかくやまはひかりにかすれ)
火薬と紙幣
萓の穗は赤くならび
雲はカシユガル産の苹果の果肉よりもつめたい
鳥は一ぺんに飛びあがつて
ラツグの音譜をばら撒きだ
古枕木を灼いてこさえた
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黒い保線小屋の秋の中では
四面体聚形しゆうけいの一人の工夫が
米國風のブリキの罐で
たしかメリケン粉を涅こねてゐる
鳥はまた一つまみ、空からばら撒かれ
一ぺんつめたい雲の下で展開し
こんどは巧に引力の法則をつかつて
遠いギリヤークの電線にあつまる
赤い碍子のうへにゐる
そのきのどくなすヾめども
口笛を吹きまた新らしい濃い空気を吸へば
たれでもみんなきのどくになる