『心象スケッチ 春と修羅』
□真空溶媒
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もう大丈夫です)
何が大丈夫だ おれははね起きる
(だまれ きさま
黄いろな時間の追剥め
飄然たるテナルデイ軍曹だ
きさま
あんまりひとをばかにするな
保安掛りとはなんだ きさま)
いヽ氣味だ ひどくしよげてしまつた
ちヾまつてしまつたちいさくなつてしまつた
ひからびてしまつた
四角な背嚢ばかりのこり
────────
たヾ一かけの泥炭になつた
ざまを見ろじつに醜い泥炭なのだぞ
背嚢なんかなにを入れてあるのだ
保安掛り、じつにかあいさうです
カムチヤツカの蟹の罐詰と
陸稻をかぼの種子がひとふくろ
ぬれた大きな靴が片つ方
それと赤鼻紳士の金鎖
どうでもいヽ 実にいヽ空氣だ
ほんたうに液体のやうな空氣だ
(ウーイ 神はほめられよ
みちからのたたふべきかな