『心象スケッチ 春と修羅』
□真空溶媒
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りつぱな硝子のわかものが
もうたいてい三角にかはつて
そらをすきとほしてぶらさがつてゐる
けれどもこれはもちろん
そんなにふしぎなことてもない
おれはやつぱり口笛をふいて
大またにあるいてゆくだけだ
いてふの葉ならみんな青い
冴えかへつてふるえてゐる
いまやそこらは alcohol 瓶のなかのけしき
白い輝雪きうんのあちこちが切れて
あの永久の海蒼かいさうがのぞきでてゐる
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それから新鮮なそらの海鼠なまこの匂
ところがおれはあんまりステツキをふりすぎた
こんなににはかに木がなくなつて
眩ゆい芝生がいつぱいいつぱいにひらけるのは
さうとも 銀杏並樹なら
もう二哩もうしろになり
野の緑青ろくせうの縞のなかで
あさの練兵をやつてゐる
うらうら湧きあがる昧爽まいさうのよろこび
氷ひばりも啼いてゐる
そのすきとほつたきれいななみは
そらのぜんたいにさへ