『心象スケッチ 春と修羅』
□真空溶媒
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燐光珊瑚の環節に
正しく飾る眞珠のぼたん
くるりくるりと廻つてゐます
(えヽ8エイト γガムマア eイー 6スイツクス αアルフア
ことにもアラベスクの飾り文字)
脊中きらきら燦かがやいて
ちからいつぱいまはりはするが
眞珠もじつはまがひもの
ガラスどころか空氣だま
(いヽえ、それでも
エイト ガムマア イー スイックス アルフア
ことにもアラベスクの飾り文字)
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水晶体や鞏膜きやうまくの
オペラグラスにのぞかれて
おどつてゐるといはれても
真珠の泡を苦にするのなら
おまへもさつぱりらくぢやない
それに日が雲に入つたし
わたしは石に座つてしびれが切れたし
水底の黒い木片は毛蟲か海鼠なまこのやうだしさ
それに第一おまへのかたちは見えないし
ほんとに溶けてしまつたのやら
それともみんなはじめから
おぼろに青い夢だやら