『心象スケッチ 春と修羅』
□真空溶媒
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ところがどうもおかしい
それはわたしの金鎖ですがね)
(えヽどうせその泥炭の保安掛りの作用です)
(ははあ 泥炭のちよつとした奇術ツリツクですな)
(さうですとも
犬があんまりくしやみをしますが大丈夫ですか)
(あにいつものことです)
(大きなもんですな)
(これは北極犬です)
(馬の代りには使へないんですか)
(使へますとも どうです
お召しなさいませんか)
────────
(どうもありがたう
そんなら拝借しますかな)
(さあどうぞ)
おれはたしかに
その北極犬のせなかにまたがり
犬神のやうに東へ歩き出す
まばゆい緑のしばくさだ
おれたちの影は青い沙漠旅行
そしてそこはさつきの銀杏いてふの並樹
こんな華奢な水平な枝に
硝子のりつぱなわかものが
すつかり三角になつてぶらさがる