『心象スケッチ 春と修羅』

□真空溶媒
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  ウーイ いヽ空氣だ)
そらの澄
ちやう明 すべてのごみはみな洗はれて
ひかりはすこしもとまらない
だからあんなにまつくらだ
太陽がくらくらまはつてゐるにもかはらず
おれは数しれぬほしのまたたきを見る
ことにもしろいマヂエラン星雲
草はみな葉緑素を恢復し
葡萄糖を含む月光液
げつくわうえき
もうよろこびの脈さへうつ
泥炭がなにかぶつぶつ言つてゐる
 (もしもし 牧師さん


────────


  あの馳せ出した雲をごらんなさい
  まるで天の競馬のサラアブレツトです)
 (うん きれいだな
  雲だ 競馬だ
  天のサラアブレツドだ 雲だ)
あらゆる變幻の色彩を示し
……もうおそい ほめるひまなどない
虹彩はあはく変化はゆるやか
いまは一むらの軽い湯氣
ゆげになり
零下二千度の眞空溶媒のなかに
すつととられて消えしまふ
それどこでない おれのステツキは


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