『心象スケッチ 春と修羅』
□春と修羅
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ぬすびと
青じろい骸骨星座のよあけがた
凍えた泥の亂反射をわたり
店さきにひとつ置かれた
提婆のかめをぬすんだもの
にはかにもその長く黒い脚をやめ
二つの耳に二つの手をあて
電線のオルゴールを聽く
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戀と病熱
けふはぼくのたましひは疾み
烏からすさへ正視ができない
あいつはちやうどいまごろから
つめたい青銅ブロンヅの病室で
透明薔薇の火に燃される
ほんたうに、けれども妹よ
けふはぼくもあんまりひどいから
やなぎの花もとらない