『心象スケッチ 春と修羅』
□春と修羅
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くらかけの雪
たよりになるのは
くらかけつづきの雪ばかり
野はらもはやしも
ぽしやぽしやしたり黝くすんだりして
すこしもあてにならないので
ほんたうにそんな酵母のふうの
朧おぼろなふぶきですけれども
ほのかなのぞみを送るのは
くらかけ山の雪ばかり
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(ひとつの古風な信仰です)
日輪と太市
日は今日は小さな天の銀盤で
雪がその面めんを
どんどん侵してかけてゐる
吹雪フキも光りだしたので
太市は毛布けつとの赤いズボンをはいた