『心象スケッチ 春と修羅』
□オホーツク挽歌
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あをいまつ青いとどまつが
いつぱいに生えてゐるのです)
いちめんのやなぎらんの群落が
光ともやの紫いろの花をつけ
遠くから近くからけむつてゐる
(さはしぎも啼いてゐる
たしかさはしぎの發動機だ)
こんやはもう標本をいつぱいもつて
わたくしは宗谷海峽をわたる
だから風の音が汽車のやうだ
流れるものは二条の茶
蛇ではなくて一ぴきの栗鼠
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いぶかしさうにこつちをみる
(こんどは風が
みんなのがやがやしたはなし聲にきこえ
うしろの遠い山の下からは
好摩の冬の青ぞらから落ちてきたやうな
すきとほつた大きなせきばらひがする
これはサガレンの古くからの誰かだ)
噴火灣(ノクターン)