『心象スケッチ 春と修羅』
□オホーツク挽歌
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萓草の青い花軸が半分砂に埋もれ
波はよせるし砂を巻くし
白い片岩類の小砂利に倒れ
波できれいにみがかれた
ひときれの貝殻を口に含み
わたくしはしばらくねむらうとおもふ
なぜならさつきあの熟した黒い實のついた
まつ青なこけももの上等の敷物カーペットと
おほきな赤いはまばらの花と
不思議な釣鐘草ブリーベルとのなかで
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サガレンの朝の妖精にやつた
透明なわたくしのエネルギーを
いまこれらの濤のおとや
しめつたにほひのいい風や
雲のひかりから恢復しなけばならないから
それにだいいちいまわたくしの心象は
つかれのためにすつかり青ざめて
眩ゆい緑金にさへなつてゐるのだ
日射しや幾重の暗いそらからは
あやしい鑵鼓の蕩音さへする
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