text。

□好意の方向
3ページ/7ページ


〜木佐翔太の場合〜



『相手を後ろから呼んだ時、右から振り返ればその人は、あなたに好意を持っています。』


「へぇ―。マジか・・・」


俺は毎日見ている朝のニュース番組の中の『恋愛心理学特集』に目を奪われた。


普段少女マンガの担当編集をしていることもあり、
こういう話は結構好きだったりする。



―雪名はどっちから振り向くんだろうか



こういう時に一番に思い浮かぶのは、やはり雪名の顔。

別に雪名に好かれてないなんて思っていないし、
雪名が左から振り向いたからといって、雪名がいつも言ってくれる「好き」を疑うつもりもない。



でも・・・・

やっぱり左から振り向かれたらショックだよな・・・。
だって2分の1だぜ?超高確率じゃん!


・・・・・・



こういう時思うのは・・・・
つくづく自分はネガティブだってこと。

あ―!だめだ・・・。
朝から気が重い―…仕事…いこ…。



俺はそれからいつもより早めに出社した。


「おはよーございまーす」と俺が挨拶をして編集部に入ると
いつもより明らかに機嫌が良い高野さんと、りっちゃんがすでに仕事をしていた。

「あ!おはようございます木佐さん!」
「木佐、おはよ」


…この高野さんの上機嫌っぷり、りっちゃんかな


”上司が機嫌が良いのはとても良いことだ。”


朝俺はそう思ったんだけど、夕方にはその考えを後悔した。



今日に限ってはそうじゃないほうが良かったかもしれない…



校了明けということに加え、高野さんの機嫌がすこぶる良かったため、あまり無茶なことも言われなかった。

その為、定時には仕事が完全に終わってしまい、
何もないのに編集部に残っててもしょうがないと、俺はさっさと帰宅することにした。


そこまでは…
まあ、良しとしよう…
早く帰ることもたまには大切だしな。


でもさ…


でもね?


俺はなんでこう…


『ブックスまりも』が好きなんだろうねぇ…。




俺は自分の行動にげんなりしながらも
少女マンガコーナーの近くにある雑誌コーナーで欲しくもない雑誌を手に取った。


目は自然と雪名を探す。



―あ・・・いたっ!!!



雪名は丁度俺に背を向ける形で新刊であろう漫画を黙々と並べていた。
いつもすぐ見つかるけど、これなら大丈夫そうだ。


それにしても…後姿もかっこいいわ…



俺がそんな風に自分の彼氏の働く姿に見とれていると、店内に甘い声が響く。


「雪名くーん!」


雪名目当てであろう、その甘い声の持ち主は、俺の横を通りすぎ、雪名に真っ直ぐ近づいていく。


そんな声どっから出るんだよ…


俺がそんなことを思いながら雪名を見ていると
その声に気がついた雪名がこちらに振り返る。
俺は見つからないように顔を半分雑誌で隠し、それを見ていた。




何気なく見ていたその光景



意識なんてしてなかった



でも、
俺はその光景に目を見開いて
そして、ボソッとつぶやいた。




「・・・・左、だった…」





雪名はもう、いつものキラキラした笑顔で
その女の子と話をしている。

女の子はまだ甘い声を崩さず
雪名に対する『好意』をむき出しにしていた。




でも、もうそんな事どうでも良い。





そんなことより…



ねえ…



雪名…



俺は??


俺だったら????




たまたまかもしれない。
偶然かもしれない。
それに雪名は左から振り向くタイプかもしれない。
期待して、違ったとき俺は多分、すごい傷つく。



でも、

一度湧き上がってきた期待は

もう治まってくれそうもない。



俺は雪名が接客を終え、また俺に背を向けたのを確認して
持っていた雑誌を置き、一歩踏み出した。




そして―






「雪名!」





愛しい名前を呼ぶ。




すると一瞬動きを止めたお前は…


こっちを振り向き


一瞬驚いた顔をして


でもすぐに笑顔になって


嬉しそうに俺の名前を呼び近づいてくる。


「木佐さん!どうしたんすか??」




どうしよう…


どうしよう…





「いや…今日早く終わったから…迎えに…きた」


俺は必死に声を絞り出す。


「マジですか!?うわーうれしいです!俺!
あ!!俺、もうコレ出したら上がりなんで、
ちょっと待っててもらえますか!?」





どうしよう…



どうしよう…




「…??木佐さん?」

「・・・ろよ?」






どうしよう・・・


うれしい・・・・


雪名が振り向いたのは
『好意の方向』

それはきっと無意識で
偶然で・・・

でも・・・
俺にだけで・・・

それがたまらなく嬉しくて…



「え?何ですか?」



「はやくしろよ?…早く…お前と…2人になりたい」


あ・・・
やべ・・・
つい本音が!!!!

俺は自分の言葉にすぐ後悔したが、一度発した言葉は戻ってこない。

ああ、ほら雪名驚いてる…


「あ!あの…雪名…ごめん…そ「はい!すぐ片付けます!ここで待っててください!」

雪名は俺の言葉を遮り、いつも以上の笑顔でそう言うと、
くるりと後ろを向いて残りの作業をはじめた。



うわ・・早・・・


俺はその光景に思わず笑ってしまう。

そして俺は
その後ろ姿にそっとつぶやく。




「雪名、オレスキ」







.....木佐翔太の場合END


次のページからは
羽鳥芳雪の場合です。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ