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□反省。
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〜小野寺律の場合〜




高野さんに気持ちを伝えて1ヶ月。

毎晩、高野さんの家に引きずり込まれ、2人で過ごすというこの日常にも慣れはじめた今。




俺は、もう一度この人にまわし蹴りを食らわせてやろうかと、本気で思っている。




その原因は、

「もしもし、横澤?なんだ?」

この言葉から始まった電話が、俺をほったらかしにして1時間も続いているという事にある。



はじめは仕事の話をしていたようなので、仕方ないと我慢していたが、
今では「ソラ太がー」とか、「あそこの飯が美味い」とか・・・すっかり私用電話になっていた。


別に、他のやつと話すな!とかそんな高野さんみたいな心の狭いことは言わないけど…

仮にも、恋人が横にいるのに、他の奴と、しかも自分をスキと言ってきた奴と長電話するなんて、非常識すぎやしないか?


俺は未だ楽しそうに、電話の向こうの横澤さんと会話する高野さんを横目で睨みつけた。


それでも高野さんは気づかずに、ハハハッと楽しそうに笑い声を上げている。


「俺といるときは、そんな笑わないくせに…」


横澤さんと話すとき、高野さんはよく笑う。

それは俺と2人の時には見ない表情。

俺には引き出せない表情。

そんな表情を電話越しでも簡単に引き出せてしまう横澤さんにも腹が立つ。



俺の我慢ももう限界だ。


俺は、近くにあった紙とペンを手に取り、その紙に『もう寝る!』と書きなぐると、乱暴に高野さんに押し付けた。

その紙をみて高野さんは「おい!」と俺を引きとめようとしたが、
俺はその声を無視して寝室のドアを勢いよく閉め、ベットに倒れこんだ。



”高野さんのばか・・・”



俺はシーツに包まりぎゅっと目を閉じた。

シーツからはタバコの残り香が混ざった高野さんの香りがして、普段は落ち着くその香りも今は俺を苛立たせる。


「おい、律―」

俺がベットに潜り込んですぐ、電話を終えた高野さんが寝室へと入ってきた。
そして高野さんはギシッとベットを軋ませ、俺の横に腰を下ろすと、少し甘えた声で俺に話しかけてくる。



「律?りーつ?」
(うるさいなぁ)

「律?本当に寝たのか?」
(起きてるよ、でも怒ってるんだ)

「ひとん家で先に寝るなよ」
(はぁ!?誰のせいだよ!誰の!)


俺は高野さんの問いかけに心のなかで反論しながらも、高野さんに背を向け狸寝入りの決め込んだ。


すると高野さんは、俺の気持ちを察したかのように
「まあ、俺が中々電話切れなかったからな、仕方ないよな・・・」
と言って、背を向ける俺の頭に優しく大きな手を置いた。


そしてその手は、
まるで子供をあやすように
優しくゆっくりと、
俺の頭を撫でていく。

その手があまりにも心地よくて、
いままでの苛々が一気に
消えていった。


「ごめんな、独りにして」


俺はその言葉を聴くと、
今まで固く瞑っていた目をゆっくりと開けて寝返りをうち、
俺の頭に手をかざす高野さんを見上げた。



「起きてたのか?」
「はい。起きてますよ」

「じゃあ、返事くらいしろよ」
「1時間も人のことほったらかしにしておいて、何いってるんですか!」

「…やっぱり怒ってたのか」
「・・・・・・・」

「わるかったな、寂しい思いさせて」
「だ!誰が寂しいんですか!調子にのらないでください!」


「なんだよ、人がせっかく謝ってるのに」


じゃあ、なんでそんなに嬉しそうな顔してるんだ、あんたは!


そう心の中でまた激しく反論しながらも、
その嬉しそうに笑う顔に見とれてしまう。





俺は自分の頭からいつの間にか離れてしまった高野さんの腕を掴んで呟く。


「も、もう一回、頭撫でてください…
そ、そうしたら、許してあげなくも、ないです」


すると、高野さんは一瞬驚いた表情を見せて、
でもすぐふわっと微笑み、「はいはい」と俺の頭を優しく撫でてくれた。



「次したら、許しませんからね」

「頭撫でられて、顔真っ赤にしながら言われてもこわくねーな」

「はあ!?あんたには反省するって機能がついてないんですか!」

「まあ、寂しかったとか素直に言えば俺も反省するけど?寂しくなかったんだろ?」



高野さんの手は先ほどと同じように優しく俺の頭を撫でているが、
その顔からあの優しい微笑みは消えていて
変わりにいつもの嫌味な笑顔が俺の顔を覗いていた。




こういう人だよ…
この人は…




若干諦めに近い感情を抱きながらも
それでも負けず嫌いの俺は、ため息混じりに小さく呟いてみる。


「寂しかったです…だからもうしないでください」





その予想外の答えに
高野さんは目を丸くして動きを止めた。


その反応を見て満足した俺は
今度は代わりに嫌味な笑顔をつくって高野さんの顔を覗き込みながら聞き返す。










「反省しました?」













(お前それ、俺を喜ばせるだけって分かって言ってる?)
(!?)
(そんなに寂しかったんなら、今からしっかり俺で満たしてやるよ)
(はあ!?あんた、反省するんじゃなかったのか!!)
(した、反省したから、今度は誠意を見せる)
(ちょ、わっ!あ・・・んんん!!!)
(今日は携帯の電源も切ったから、もうお前のモンだぜ?)
(!!!!!やっぱり最悪だろ!!!あんた!!)





・・・・・・・・・・・・end.


次からは
桐嶋禅の場合をお送りします。
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