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□キラキラ。〜高野政宗の場合〜
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今日は朝から作家との打ち合わせやら、会議やらが立て込んで、全く編集部に戻れなかった。


うちの編集部は皆優秀なのばっかりだから、仕事面では何も問題はない。



問題があるとすれば、俺が今日小野寺に会えていないということだ。


せめて夕方からの会議はとっとと終わらせて、小野寺と一緒に帰ろうと思っってたんだが、
営業部の上の方のやつがグチグチ絡んできたせいでそれも叶わなかった。


「クソ!横澤、お前上司使えるようにしとけつったろ!」

「あぁ!?あれは俺のせいじゃねーだろ!」


営業部の友人、横澤に八つ当たりするもイライラは治まらない。




完全に律不足だ・・・。





俺は横澤と別れ、実に数時間ぶりに自分のデスクへと戻った。
するとそこには小野寺が提出して帰ったであろう企画書が数枚重なっていた。
なぜか俺はそれさえも愛おしくて、
終電の時間が迫る中その書類に目を通した。


「こんなに一遍にやらなくても…これなんか締め切り来週だろ…」


その書類の中に、今日中に出さないといけないものは一枚も無く、それを見た俺は少し期待をしてしまう。


”律、お前も俺に会いたかったのか?”


あいつは素直じゃないから、普通に待ってるなんてこと出来ないだろう。
でも、それでも、俺に会いたかったから、
今日やらなくてもいい仕事をこんなにして、
俺を待っててくれたのか?
もし、そうだとしたら…。


「たまんねーな。」



たまらなく愛おしい。



俺はその書類を大切に鞄の中にしまい、駅へと急いだ。




いつもあいつと帰る道や、ホームや、電車の中は、やはり独りだと何か物足りない。
あいつがいなかった1年前にはこんな事感じなかったのに…。



律がいるだけで景色は色づいて、律の声が聞こえるだけで心が暖まる。




それはとても懐かしくて、
10年前腐りかけた俺にお前が与えてくれたものと似ていて、
でも全く一緒ではなくて…
そこがいろんな意味で成長した俺には丁度良かった。




お前も同じことを考えていれば良いのに。






俺はそんな事を考えながら自宅へと歩みを速めた。
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