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□キミノセイ
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「お願いりっちゃん!今から高野さんと山田先生のとこ来て!」


電話を受けた小野寺律はその勢いに思わず受話器から耳を離した。

それは律の先輩である木佐翔太からの電話だった。

朝から、珍しくネームに行き詰ったという自分の担当作家の家に行っていた木佐からのSOSがきたのだ。

その木佐の話を聞くと、山田先生のネームは内容構成はほぼ完成なのだが、どうしても上手く描けないシーンがあるらしく編集長である高野政宗と後輩の律に協力して欲しいということだった。

なぜ俺と高野さんなんだろう・・・という疑問はあったが、今日は高野も律自身も特に忙しいわけでもないし、なにより編集者として作品をより良いものにする義務がある。

律は電話を保留にし、その事を高野に伝えた。

すると高野が「しょーがねーなー」と気だるそうに準備をはじめたので木佐に「すぐに行きます」と返事をして電話を切った。




それが今から丁度30分前・・・・

今律の目の前には赤いチェックスカートの可愛い制服が用意されている。

ご丁寧なことに紺の靴下とローファー、ウィッグもセットだ。


「・・・・あの・・・・これを俺にどうしろと・・・・」

分かりきっていたのだが、受け入れがたい現実に律は顔を青くしながらその制服を渡してきた張本人である木佐に尋ねた。

その問いに木佐は「どうって・・・着る以外にないよね・・・」と申し分けなさそうに答える。


「何で俺なんですか!っていうか制服なら木佐さんの方が似合うでしょ!」

律は木佐に詰め寄りながら必死に訴えた。

律は流石エメ編といえる綺麗な顔立ちで肌の色も白く体格も男にしてはとても華奢できっとその制服もよく似合うだろう。

しかしそれは木佐も同じで制服ならむしろ童顔の木佐のほうがよく似合う。

それなのになぜ自分がこの制服を着なければならないのか・・・・と納得がいかないのだ。


木佐はそんな律の気迫に押され少し後ずさりをしながら足元に置いてあった紙袋を手に取った。

「りっちゃん・・・・大丈夫・・誰もりっちゃんにだけ女装しろなんて言ってないよ・・・」

そう言いながら木佐は紙袋から、春らしい小花柄のワンピースとウィッグを取り出して律に見せる。


「俺もするから・・・お願い!作品のためだとおもって!」

「――――――っ!!!」

そう言われると律はもう何も言えなかった。

するとそのやり取りを今まで黙ってみていた高野がふっと口を開いた。


「小野寺!仕事だろ?それとも何?お前は編集者としてこんなことも出来ないの?」

「んな!?で・・出来ますよ!何言ってるんですか!」

「じゃあさっさとして!俺忙しいんだけど」

「わかってます!」


高野のいつもの挑発に乗ってしまった律はやればいいんでしょ!やれば!そういいながら用意された制服を持って横の部屋に移動した。

それを見た木佐も高野に「ありがとう」と目配せしながらその後を追う。
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