駄文U
□貴音は僕のもの
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ホントはそんなことしたくないけど、もし逃げられちゃったら困るから。
せっかく貴音をてに入れられたんだから。
一生手放さない。
貴音の綺麗な黒髪を撫でる。
「…ふふ。可愛いな、僕の貴音…」
*
…なんだろう。
頭が痛い。
もしかしてまた病気で倒れちゃったのかな…。
いや、違う…。
誰かに後ろから殴られて…。
……遥?
「…貴音…まだ目を覚まさないの…?」
「…ぅ、んん…?」
あれ、手と足が動かせない…?
どうして…?
目を開くと、頬に遥の手が当てられていて近くに遥の顔があった。
「っ…!!?」
遥の顔が近くて反射的に逃げようとして、腕と足からガチャッと金属音がなったのに気づいた。
そちらに目線を向けると、また驚きの光景で。
目を見開いた。
「なっ…どういうこと…?」
まるで、手錠のようなもので手足を拘束されている。
それから逃れたくて、手足を動かしてみても冷たい金属に触れるだけで逃れることができない。
そうしてガチャガチャと金属音を鳴らしていると、遥に首をあげさせられる。
「やめてよ、貴音。逃げようなんてしないで…?」
いつもと似ていてのんびりとした声色の中に、
どこか、鳥肌が立つようなそんな感覚が隠されていた。
「…僕、貴音のこと愛してるから傷つけたくないんだ。ねぇ?貴音も傷つきたくないでしょ?だから…」
狂気を帯びた瞳と目があってゾクッと身体がふるえる。
「僕に逆らわないで?」
*
ゾクゾクする。
その、怯えた表情。
堪らない。
きっと貴音がそんな表情を向ける人は僕しかいないだろう。
嬉しい、嬉しい、嬉しい!
口角があげるきもないのに上がってしまう。
だめだ。
気分が高揚しておかしくなってしまいそうだ。
怯えた表情をした貴音にさらにつめよって顔を手で固定する。
ぐいっと顔を近づけると貴音の息を止める音がした。
ダメだよ、まだ死んじゃ。
貴音が死ぬときは、僕が殺したときだ。
貴音の顔から手を離して、距離を取る。
明らかに安心したような顔。
なんだか、ムカついちゃうな。
「…ね、貴音はいい子だから逆らわないでしょ?逆らわないでいてくれたらこれ、とってあげる」
貴音の両手足を拘束する鉄の飾りに触れて提案する。
それと同時に貴音の目も僕の手を追うように動いた。
「…どうして、こんな…」
うるうると涙が目を潤していく。
あれ、これ以上なくわかりやすく説明したはずなのにわからなかったのかな。
「愛してるからだよ、貴音」
「…そんなの、愛じゃないっ…!」
*
ーパァンッ!
なにが起こったのかわからなかった。
だけど無意識に頬に伸ばされた手と、その頬から感じる痛みにいやがおうにもなにがあったかわかってしまう。
じわり、と涙の膜が瞳を覆う。
ネタではないが、それこそ「親にも叩かれたことないのに」という感情だ。
叩かれて横を向いた顔を正面に戻せなかった。
遥が人を叩くようなやつには見えなかったし、そんなやつが私を叩いた顔なんて見たくなかった。
それなのに、ぐいっと向かせられる。
「っ…!」
普段の温厚な大きく開いた瞳とはちがって、 薄く開かれた瞳が私を睨む。
その黒い瞳に怯える私が移って、一瞬こんな顔で怯えるんだなんて他人事みたいに思ってしまった。
くいって首を上げられて遥の顔が前髪に隠されて見えなくなった。
「…逆らわないでっていったでしょ…?貴音…」
呟くように小さな声で言う遥の唇はわなわなと震えていた。
「貴音はね、僕の言うことだけきいていればいいんだよ」
顔を上げた遥はどこか
悲しいような、嬉しいようなよくわからない表情で。
私を縛り上げる手の鎖に触れると、よくわからない表情が笑顔に刷り変わった。
「だから、これはほどいてあげない。貴音は僕のお人形だよ…」
つり上がった口角が遥じゃない誰かのようだった。
第一章 終