駄文U

□貴音は僕のもの
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第一章

あくる冬の日。
いつもどおり、早く家にかえってゲームをしようとスクールバックに荷物を詰めて、肩にかけようと持ったその瞬間に、隣から声がかかった。

「ぁ、貴音。もう帰るの?」

のろのろと話すその声は、九ノ瀬遥という女子みたいな名前の男子だ。
私とは違う重たい病を持っていて、大事にしなければならなくて外で遊べなかったのか色白で。
絵ばっか描いているのんきなやつ。
それが九ノ瀬遥という人間だった。
そう、私は思っていたんだ。



今まで、学校というものがなんのためにあるのかわからなかった。
将来のためとか、友達のためとか、そんなくだらない理由を何度も聞いた。
でも、病気で明日死ぬかもしれない僕にとってはそんな未来のことなんてどうでもよかったし、病気でよく倒れる僕に友達なんてできるわけもない。
今まで、ざわめく教室で一人淡々と絵を描いていた。
その絵たちはなれなかった僕のなりたかった僕の姿。
野球のユニホームをきてバットを握る姿。
ボールを蹴る姿。
トリケラトプス。
今までもこれからもそんなページを、僕だけの世界を紡いで死んでいくのかと、そう思っていたんだ。
だけど、ちがった。
高校生になった僕は親の計らいで特別教室に割り振られた。
親に聞かされた。
特別教室にはもう一人クラスメイトの女の子がいるのだと。
そんなことは今までなくて。
少し心臓が高鳴る。
だが、今まで人付き合いもまるでしたことがないのに、女の子となんて、ハードルが高い。
ため息をついてベッドから窓枠に触れた。



「…へぇ、あんた。絵上手いんだ」

「ぇ…」

高校生になっても僕の日常は変わらなくて。
隣の女の子はいつもイライラしたように机に肘をついている。
話しかけにくい雰囲気に困って絵を描いていた。
病気じゃない僕の姿。
そうしてペンを動かしていたら隣から声がした。
驚いてすっとんきょうな声をあげて顔を上げた。

「…なによ」

「あっ、いや…。ありがとう…」

目が合うと睨むように問い返してくる。
それに気まずくて怖くて目をそらした。
そう、初対面はただ怖かったんだ。
でも、あの学校祭を超えて仲良くなっていくにつれて、貴音の存在の全てが目に焼き付いて。
つまらないと思っていた学校がキラキラと輝き始めた。
彼女が頭を占めていく。
恐ろしいことだけれど、同時に嬉しくて。
毎日月を眺めながら彼女を想う。



「うん、早くかえってゲームしたいし」

私には、数ヶ月後に控えるゲームの全国対戦のために腕を鈍らせる訳にはいかないのだ。
その大会には遥は出場せずに、腕をあげるといっていたはずだが、一体どうしたというのだろう。

「あ、じゃあさ。僕と一緒にやろうよ。僕の家で」

なぜだか、本題に入らずに家に誘われる。
確かに遥の話す内容が長いならばそちらのほうが楽かもしれない。
それに、遥の家に多少興味もあった。

「…ん〜、うん。じゃあそうする」

そうして、遥の後に続いて遥の家に向かった。



怖かった。
日に日に増していく貴音への愛情が。
鞄のポケットの裏の裏。
トイレに行った貴音にバレないように盗聴器をつけたのはいつだったか。
小型カメラをリュックのポケットにつけたのも。
自分の足で貴音をつけていけるほど、僕は強くないから。
そんなふうに貴音を監視するようになったのはいつからだっただろう。
悪いことをしているなんて実感はもとからあった。
罪悪感がたまっていくのと同時に、学校だけじゃ見れない貴音の新しい一面を見れる、それだけで心が踊った。
もっとみたい。
誰も知らない貴音の一面を、僕だけが知りたい。
そんな欲求が胸を支配して。

「…貴音ともっと一緒にいれたらいいのにな…」

ディスプレイに映る貴音に触れて微笑んだ。

「…そっか。監禁しちゃえばいいんだ…」

ディスプレイに薄く映る自分が怖かった。



「へぇ、ここが遥の部屋なんだ〜」

遥の後について部屋にお邪魔する。
水色の壁紙と勉強机、ベッドと私から見たら少し質素な部屋だった。
私の部屋にはデスクトップパソコンがあるからかな。
少し部屋を見渡すと、トリケラトプスのフィギュアと、スケッチブックが置いてあるのが見えた。

「遥、恐竜すきなの?」

「うん!かっこいいよね!」

遥は、私がトリケラトプスのフィギュアを見つけたのに気付いたのかそれを手にとって頬に擦り付けるようなしぐさを見せた。
まるで女子のような仕草をする遥になぜかイライラする。

「それより、遥。早くゲームしたいんだけど、用事ってなっ…!?」

なにかの強い衝撃を受けて、私は倒れ込んだ。



「……貴音」

呟いた声が部屋に大きく響いた。
ベッドに寝かしつけて、手と足をベッドの柱に縛り付ける。
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