駄文U

□癖
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ー酷く、渇望感に襲われたんだ。



目の前で泣いて、僕に助けを求める彼女の涙は…。
酷く、綺麗で。
そして、僕には重すぎた。

「…っ、たす、けてっ…!わたっ…私っ、消えちゃうよぉっ…」

…消える?
じわり、と背中に嫌な汗が流れる。
…キドが…?
瞳孔がミシミシ音を立てて広がっていく。
多少の痛みが、今が現実なのだと教えてくれる。
ーそれは、嫌だ。
一瞬閉じた目を赤く光らせて、欺いてニコリと笑った。

「大丈夫だよ!キドなら、大丈夫…。ねぇ、その能力を使いこなせるようにしよ?」

無理だよって泣くキドを宥めて、なんとか一緒に訓練を始めた。



カノは凄いと思う。
自分の能力をちゃんと使いこなせるし、私を見つけられる。
私には出来ない。
カノが欺いても、私にはわからない。
どうして私には出来ないのだろう。
目が、赤く紅く光る。
そして、また消えた。

「……」

そんなとき、私は。



「…キド」

子供用の先の丸いハサミをもったキドの手を少しずらす。
ハサミは僕の頬をすかして、止まった。
掠めたところが熱くなってなにかが垂れてきたようだけど、気にしないでキドを抱き締めた。
「か、カノ…」

一瞬頬に目線がいったかのようにみえた。
抱き締めたキドはハサミを落として震える手で背中に手を回した。

ーポタリ。

「大丈夫だよ、なにがあっても絶対にキドを見つけてあげるからね…」

そうやってまた、笑顔を作った。



俺は生かされている。
あいつの言葉、笑顔、行動。
それらに、生かされている。
強くなった。
そう思っていても。
あいつには勝てなくて。
ふと、首筋の傷が疼いて。
手のひらで押さえた。



「あれ…?」

ある日。
カノと二人で遊んでいた。
すると、指に違和感を覚えた。
私と同い年なのに、私より小さくてまるっこい爪。
不揃いで、少し痛い。

「カノ…これ、どうしたの?」

癖だよ、と笑うカノに違和感。
なんでかな…。



布団にくるまって、爪を触る。
キドに言った通り、これたただの癖だ。
僕は、なにかを我慢したりしなくちゃいけないときに爪を噛む癖がある。
酷い時は血が滲んでいたりする。
固いものでなければ意味がない。
ーガリッ!
滲んだ血をなめとってにこりと笑った。



「カノッ!」

次の日。
キドが先生と買い物に行った。
そして、帰ってくると。
飴の袋を両手に持って走ってくる。

「これ、あげるっ!」

噛み癖があるならっていってくれた、ドーナツみたいに真ん中が空いた飴は。



「カノ、飴はまだあるのか?」

まだ、部屋に残っている。

「ぅん、大丈夫だよ」



「キド?どうしたの?」

明らかに他意が混ざった問いにいらいらしながらなんでもない、と返す。
にやり、とカノの口角があがったのを目の端でみて…。

ーダンッ…!

閉じ込められる。
カノと壁の間に。
予想は出来ていたから、そんなに驚きはしなかったが、壁に打ち付けた背中がいたい。

「またするのか」

首をひねりながら問えば頷きが帰ってくる。
一体いつからこんなに頻繁になってしまったのか。
いや、むしろいつからこんなことを…。



ードサリッ

月明かりさえも入らないような、夏の夜。
キドをベッドに押し倒した。
目を見開いたキドと目が合う。
そのとき。

ーあ。

背筋にゾクッとした感覚が走る。
そして、凄まじくその白い肌に噛みつきたくなった。
それをダメだ、と止める理性とそれをしてしまえ、という自らの欲求が混ざりあって…。
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