首を横にふり「分からない」と言うと、男性は顔をしかめた。
「うーん。記憶喪失ってやつか? 小説みてえだな」
男性はメイスを持ちながら家の中に入ると、軽く手招きをした。
私は訳が分からなかったが、素直に従った。
中に入ると、家の外観通り、まるで絵本の世界に飛び込んだような内装だった。
エプロンをつけたクマでも出てきそうだ。
ただ、背の高い本棚が三つあり、それにこれでもかと詰め込んだ大量の本。
それが絵本なら世界観は壊さなかったのだろうが、残念ながら辞書みたいに分厚い難しそうな本だった。
「ちょうどよかったよ」
男性は机にティーカップを置き、紅茶を淹れた。
一つしかないイスをひき、座れと示してくる。
少し高いイスによじ登るようにして座り、紅茶を一口含んだ。
「俺は子どもがいなくてな。後継者をどうしようかと思っていたが、心配はいらなかったようだ」
「後継者ですか? いいですけど、私は敵国の人間なんですよね?」
「俺は後継者ができればそれでいい」
仁王立ちでキッパリと言い放つ。
男性のそんな姿に、思わず笑みがこぼれた。