じろり。
教室に入ってすぐ、ねっとりとした視線をあてられた。
ビクッと少し体を揺らしてしまった。けど、大丈夫。私には味方がいるんだ。
でも、あの日から前を向いて歩くのが苦手になった気がする。
前を見たら誰かの強い視線が視界に入る。それが怖くて、つい猫背になってしまう。
「志乃、おはよう」
「おはようございます、志乃さん」
アリババ、その少し後にモルジアナ。
一瞬にしてしーんとなった教室に私の小さな「おはよう」が消えていった。
やっぱりこういうのは慣れない。
授業での発言も唇が震えてしまう私にはただの会話でも神経がすり減らされる。
いじめの標的ってだけで無駄に注目を受けてるのに……。
「アリババちゃん」
すると聞きなれた声が私達のそばからした。
後ろを向くと、紅い髪の可愛らしい少女、紅玉がいた。紅玉はあれ以来話してないし気まずいな。
アリババに何の用事かは知らないが手短にしてほしい……。
紅玉の背後には夏黄文が目を大きく見開いて立っている。
急に席を立ってずかずかと歩いて行ったから驚いたのだろう。苦労性だな……。