短編

□自傷無色
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家族を失った。
綺麗な肌を失った。
地位を失った。
片腕を失った。


(俺に残っている物は何だろう)


目の前にいる紅色の髪をした連中を見てそう思う。

綺麗な肌。高い地位。五体満足。周りからの信頼も厚いときた。


なんで俺は生きているんだ。


王宮を歩けば俺を見て陰口を言われる。

「正当な皇子じゃないのに」
「あんな母親の息子のくせに」
「白瑛様は素晴らしいお方なのになぜこいつは」

そんな目線から逃げるように俺は自室で膝を抱えた。

俺を見ないでくれよ。そうしたら、そんな気持ちにならなくて済むじゃないか。

消えたい。ここから存在ごと消え去りたい。

俺が生きてるだけで沢山の人が悲しんで、死んだら沢山の人が喜ぶのなら。俺は……。


「白龍様!」


勢いよく扉が開くと、そこにはバケツを持った一人の女性がいた。


「お部屋を掃除しますね!」


無言のままの俺を無視し、ずかずかと入ってきたその女性はお喋りが好きなようだった。


「いやあ、上の人に押し付けられちゃいましてねえ。いくら私が下っ端だからといっても自分の割り当てくらいやるものでしょう。サボりすぎですよね」


マシンガントークで勝手に一人で盛り上がり、俺に会話をさせる気が微塵も感じられない。


「私、小さい頃から掃除を仕事にして生きてきたんです。ほとんどトイレ掃除だったんですけどね。まあ、今じゃ白龍様のお部屋掃除なんで大出世ですよ!」


「俺は」


「はい?」


「俺は、大転落だ。俺が死んだところで、何も変わらないくらいに」


「そうですか?」


そうなんだよ。お前は何も知らないからそんな返答が出来るんだ。


「少なくとも私は辛いですよ。白龍様のお部屋が掃除できなくなったら生活が苦しくなります」


「は?」


つまりなんだ。俺がいるから高い給料が手に入る。俺が死んだら給料が大幅に減る。

なんだそれ。


「だから死なないでくださいね」


屈託の無い笑顔で笑った少女は、俺の存在価値を作って去っていった。

それから毎日俺の部屋を掃除しに来るようになった。

いつものようにマシンガントークをし、俺は黙ってそれを聞く。
そして最後に俺に笑いかけて出ていく。

そんな笑顔を向けるから、悲しくても消えたくても、俺は死ぬことができない。


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