短編
□後れ馳せながら
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「ねえジャーファル。なんで人類は勉強するの?」
「自分のためです」
「その本人が良い仕事につけなくてもいいって言ってても?」
「では一生高校三年生でいますか? ずっと留年しますか?」
「嫌だー」
「では勉強しましょう。自分のためです」
「……ジャーファル、なんで勉強は消えないの?」
「無駄口たたくな」
「……はい」
ジャーペンを握り問題集とにらめっこを始めてもつい手は止まる。
曲は脳内リピートを始め、頭はどんどん前を向く。
はあ、と特大のため息をついて、やっと怠けていたことに気づいた。
「もう嫌だあああ! なんで留年なんてあるのさ! 留年さえなければ追認試験なんてしなくてすんだのに!」
「まだ言いますか……」
顔をあげて私の進度を確認して落胆の表情をみせるジャーファル。すみません。
「あれ、ジャーファルなに読んでるの?」
「教科書ですが」
「うわっ」
あーやだやだ。
ここぞとばかりに秀才アピールですか。好きな小説家は太宰治ですか。
「ジャーファルも大変だよねえ。先生にこんなバカの勉強に付き合えって言われてさ。私一人で頑張るから帰っていいよ」
分かるんだよ。こいつバカだなって目で見てるのが。なんで勉強しないのって思ってるのが。
勉強しなくて困るのは私なんだから、もう放っといてよ。
「……私は知っていますよ」
「え?」
雰囲気ががらっと変わった。
ジャーファルの目はあたたかく、慈悲をうかべている。
「先生にわからない問題を聞きに行っていて、さらに毎晩遅くまで勉強していますよね」
あ……。私は唇をかんでうつむいた。
うん、そうだよ。
私だって、いきたい学校があるんだよ。
でも、バカだから。どんなに勉強しても飲み込みが遅くて、恥ずかしくて勉強してるなんて言えなかった。
ジャーファルはふわりと微笑んで顔を赤らめた。
「ずっと見てればわかりますよ」
ん……? ずっと? 今この人ずっとって言った?
顔をあげると、目があった。
「私でよければ一緒に頑張らせていただけないでしょうか」
遅ればせながら、受験勉強スタートです。