必死に足を回転させる。
教室のガラスから見えた彼に、私の心臓は高鳴った。
「おはよう、アリババ!」
「おはよう。また走ってきたのか?」
「陸上部ですから」
アリババは電車通学だから、教室には私とアリババしかいない。
他の電車通学組がきたら二人きりの時間は終わる。だから私は早起きして学校に行くんだ。
「そうだ、これ食うか?」
「食べる食べるー!」
アリババがくれたトポを少しずつ、大事に食べていく。
アリババがくれた、これ重要ね。
こんなことでも心臓はうるさく鳴るから厄介だ。
「あれ、なに読んでるの?」
「そうなだ。駅で売ってたからつい」
「子供みたいだね」
可愛い。ぐっと出かけた言葉を飲み込んだ。
本当、子供みたいで可愛い。
ばくばく音をたてる心臓とともに床を転げ回りたい。
「人間って一生のうちに鳴る心臓の鼓動が決まってるんだって」
「そうなんだー」
「そうなんだってー」
爆笑しあう二人。だが私は内心焦っていた。
それが本当だったら私、早死にしちゃうじゃん。
私が早死にしたら、アリババのせいだからね。