短編
□黒
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提出物を先生に渡すため校内を歩いていたら白龍を見つけた。
生徒会に所属している白龍はペットボトルのキャップ回収なんていう話を、同じく生徒会の女子生徒としている。
あー、嫌になる。生徒会、入ればよかった。
私は止まってしまっていた足を再び動かし、緊張で体が固くなっているのを見透かされないように白龍の横を通りすぎた。
そのまま職員室へ行き提出物を出した。
窓の外は黒の絵の具をぶちまけたような色だった。
この色で白龍の髪の色が浮かんできた。かなりの重症だ。
「白龍、楽しそうだったなあ」
ああいう子が好みなのかな。
明るくて、頭良くて、優しそうな人気者。
日陰者な私には無理だ。
こんな私がいきなり話しかけたら迷惑だろうし、第一私もクラスの人たちに白龍が好きだなんてバレたくない。
無意識にため息が漏れた。
廊下といっても校内のはずなのに、息が白く染まった。そしてあっさり消えていく。
はたと足を止めた。
廊下は朝の満員状態が嘘のようにしんとしているからだろうか。少し先にいる白龍の声がはっきりと聞き取れた。
いや、きっと白龍の声だからだな。なんてほくそ笑む。
だが、直後聞こえてきた女の声により私の笑顔は無表情へと一転した。
壁に身を隠し、盗み聞きをしてみる。
事務的な話ではなく、学校の日常的な会話だった。
私や他のクラスの女子生徒には見せない、弾けたような素の白龍の声。
私は白龍の声が大好きだ。
耳の奥で響き、胸のあたりでじんわりと広がるような。
いいなあ。生徒会にさえ入っていれば、白龍の隣で肩を並べて歩けたのかな。
毎日あの声が聞けたのかな。
もう少し好きになるのが早かったら、きっと世界は変わっていたのに。
だんだんと遠ざかっていく声たちに、白龍にとってただのクラスメイトな私は、その場に膝を抱えたまま座りこんだ。
神様、時間を戻してください。