「ヤム、ここは一旦ひこう! モルたんの言う通りだよ」
ピスティは涙眼でヤムライハに訴える。
納得いかないように下唇を噛んでいたが、ドゥニヤの「ピスティの言う通りです」でようやく引き下がった。
三人が出ていき、トイレには私とモルジアナの二人だけになった。
先程までの重苦しい空気はなくなり、心地よい無言の空間がひろがる。
「モルジアナ、助けてくれてありがとう」
「……私はアリババさんを見習っただけです」
アリババか。
モルジアナにとっては大きな存在なんだろうな。
また二人して押し黙っていると、
「制服濡れてますし、私のジャージ貸しましょうか? あ! その、私のジャージなんて嫌ですよね。すみません、他の方のを借りましょうか」
「え!? モルジアナのジャージでいいよ。むしろ嬉しいよ!」
長年のいじめられっ子経験で謙遜癖がついたのかな。
私の言葉で動きを止め、じっくりと顔を見てきた。
「あ、では……一緒に行きましょうか」
「うん」
体を反転させて私達は教室へと向かった。
並んで歩くモルジアナの横顔は、いつもよりなんだか頬がゆるんでいるように見えた。