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□最終回2
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彼女は仕事のない日を利用し、『世界扉』の魔法を使って、特定の場所へ小旅行に向かっている。
一つは、彼の暮らしていた次元の地球。

「ここね…」
彼女が立っている場所。そこはかつてシュウヘイが憐と共にアルバイトで働いていた遊園地だった。今日は日曜日だからなのか、数多くの客に見舞われている。先の尖った耳を見られるわけにもいかないので、彼女は今着帽している。
しかし、自分の力ながらさすがは始祖の力である。精神力を膨大に使うとはいえ、次元の違う世界までもつないでしまう。
でもさっき言ったとおりゲートを作るだけで疲れてしまうので、彼女はちょうど近くにあったベンチに座り込んだ。
「ふう…」
しかし、ずいぶんと参ってしまう。世界扉は場所や人物をイメージして置くことでその場所へ行けるので、仮想世界でこの遊園地に来たおかげでこの場所に来れたのだが、この中に彼がいる保証は全くない上に、これだけ人が多いのでは探すのに一苦労だ。
二年間仕事のない暇な時間をずっとこの目的のためだけに使ってきたが、果たして彼はいるのだろうか?
「あ!ちょっとそこのお姉さん!」
ふと、自分に声をかける誰かの声が聞こえてきた。彼女はその声の主の顔を確認しようと顔を上げると、ちょうど彼くらいの年齢と思われる青年がこちらにニコニコしながら駆け込んできた。
「俺とお茶しない?」
ナンパと言えば学院で、シュウヘイがいない隙を狙った男子生徒から次々とされたもので、彼女は正直困ってしまう。ふと、バシ!と頭を叩く音が響く。
「痛!」
「仕事中に何ナンパしてんのよ、尾白」
叩いてきたのは、黒いスーツがよく似合いそうな女性だった。彼女も、見たところ彼とほぼ同じくらいの年に見える。いや、この人は確か…。
「み、瑞生…」
「憐が手伝って欲しいことがあるから呼んでこいって、なのにあなたは仕事中に…針巣に給料下げてもらったほうがいいみたいね」
「か、勘弁してくれよ!頼むよ…彼女いたほうが頑張れるような気がするしさ…な?」
「だーめ」
「そこをなんとか…瑞生様〜…」
ついには懇願する青年。尾白と瑞生…やはりそうだ。
「あ、あの!」
確信を感じ取ったテファは、二人に話しかける。
「尾白さんと野々宮瑞生さん、ですよね?」
「え?ええ…そうだけど…」
「あれ?名前を知ってるってことは…もしかして俺を前から狙ってたとか?」
テファのような胸のデカイ美女に名前を知ってもらっていたことが嬉しかったのか、調子に乗る尾白。無論バシっとまた瑞生に後頭部を叩かれ、地面の上でもがき出す。
「どうして私たちの名前を知ってるの?」
「あの、まず憐って人も呼んでくれませんか?そうしたら、お話します…」

遊園地の楽屋。そこで憐を含めた三人にテファは事実を話した。もう彼のいたこの地球では三年以上も行方がわからなくなったシュウヘイが、自分の手で呼び出されてしまったこと。そしてその世界での過酷さに満ちていた戦いの時を。
「魔法の世界、そんなRPGみたいな世界マジであるんだな…」
「それに、シュウヘイが…ウルトラマンになってたなんて…」
憐は半信半疑だったが、彼女がとても嘘をつくような人物に見えなかったこともあって信じてもいいような気がしていた。
「シュウヘイが召喚…しかもこんな…」
尾白の機嫌が異様に悪そうに見える。やはり彼を召喚したことで怒りを露わにしてしまっていたのだろうか。だが、その予想は大きくちがっていた。それも、下心満載の理由だった。
「こんな…胸がバカでかくて中身のよろしすぎるかわいこちゃんに!許せん…断じて俺は許せん!」
「「お前(あんた)のほうが許せんわ!」」
「ぶふ!?」
尾白のスケベな怒りの理由に呆れた憐と瑞生は尾白を思い切り殴り、尾白はグタッと倒れた。テファも胸を凝視されたため、恥ずかしそうに胸を両腕で隠した。
「あ、あの…やっぱり怒ってます、よね…」
すぐ沈んだような表情になるテファ。覚悟はしていたが、恨まれて当然のことをしたのは事実だ。彼らからシュウヘイを奪ったのは紛れもなく自分だ。ザギに仕組まれていたことだとしてもそれは変わらない。
「私は気にしてないわ。あなただって、人を呼び出すだなんて思ってなかったでしょう」
「…確かに、俺は君が無理やりシュウヘイを拐ったことには怒りたくなる」
「憐!」
気にしてはならないと優しく言う瑞生だが、次の瞬間憐の口から放たれた言葉に、思わず声を上げる。
「でも、君はあいつを責任もって見ていてくれた。あいつをしゃんと支えてあげてくれた。俺たちができなかったことを、君はあいつにしてあげてくれた」
「憐さん…」
「つまり、俺はそれ以上に君に感謝してるってこと!だからそんな思いつめたような顔したらダメだ。君には明るい笑顔の方がスッゲー似合うからさ」
「あ、ありがとう…ございます」
「かしこまらなくていいって!俺のことも気軽に『憐』ってよんでいいからさ!なんたって君はあいつの彼女さんだろ?」
それを言われて、テファの顔は急に赤くなった。
「あいつも幸せモンだよな。こんないい娘に好かれてさ」
「…爆発しろ」
「尾白?」
「あ、あれ?俺何か言った?」
さらっと恐ろしいことを言っておきながらすっとぼける尾白。憐と瑞生はそんな尾白にわずかばかりにも恐怖を感じた。憐と瑞生は交際しているから(三年も経っているためかもう結婚は前提しているかもしれない)、尾白の前では少し遠慮をしておくことも大事だと思った。
「で…シュウヘイのことだけど、私たちは三年前に彼があなたに呼び出されて以来、顔を見てさえもいないの」
「そう、ですか…」
瑞生の返答を聞き、また沈んだ顔になるテファ。彼はここには来ていないのか?
「そうだ!あいつナイトレイダーだったから、孤門に聞いたらわかるかな?」
今日はちょうど手伝いに来てるし、と補足を加え、憐は早速携帯を取り出して彼に連絡を入れてみた。
それからしばらく、孤門はやってきた。
「君が、あいつを異世界に連れ込んだ人か」
「はい…ごめんなさい」
彼が来てから、テファは孤門にも事情を話した。
「いや、僕はきにしてないさ。てっきり昔の溝呂木みたいな奴が彼を利用しようとしたのかと思ってたから。でも、君のような優しい子があいつを呼び出した人でよかった」
「そんな…」
責められるかと思えば、彼らは決してそんなことはしようとはしない。こんな良い人間たちから自分は彼を…。いや、もうやめよう。気にしてはならないと言ってくれた彼らにまで辛さが伝染してしまう。
「残念だけど、あの時から僕らはシュウヘイの顔を見ていない。僕の仲間も上司も、誰一人…」
「そう、ですか」
「力になれなくてごめんね」
「いえ、いいんです。元は私が原因だから…」
「君は元々悪意持ってそんなことしたわけじゃないはずだ。それに、君はシュウヘイのことでちゃんと謝ってくれた。それで十分さ」
「ありがとうございます…」
「君の話してくれたこと、隊長たちに伝えてみるよ。無事だったことがわかれば、一度中断していた彼の捜索が再開されるかもしれない」
孤門が今言ったように、シュウヘイが行方不明となった直後、彼の捜索が主にビーストの死骸分析を担当しているホワイトスイーパー、そして瑞生をはじめとしたMPによって行われていた。元々秘密裏の組織で今はその存在を知らない人はいないが、かといって彼が持っているTLTの機密情報を明かされるようなことがあってはならないからだ。
「ティファニアは、これからどうするんだ?せっかく来たんだし、少しここでゆっくりしない?」
「え、でも私は…」
憐から休息を促され、テファはうろたえた。もし彼が知っている場所に偶然したとして、グズグズして入れ違い、なんて可能性も捨てきれないのだ。
「そんな慌てることないって!あのシュウヘイにやっとできたガールフレンドだ。ちゃんともてなさないとバチが当たる」
「もう…」
シュウヘイとの関係でなんだか茶化されてる気もするが、彼らの言葉に甘えてテファは憐たちからのもてなしを受けることになった。
ハンバーガーなどの食べ物を特別にただで作ってもらったり、仮面ライダーのヒーローショーを見せてもらったり、沢山のアトラクションを案内してあげたりと、夕方まで楽しんだ。道中で親とはぐれて泣き叫ぶ迷子をあやした時のテファの手ほどき用に憐たちは驚かされたりもした。
(こんな素敵な場所にいたのね、森の中でずっと暮らしてた私から見たら、凄く羨ましいな)
「あ、閉園の時間だ。そろそろアナウンスが流れるはず」
憐がそう言うと、ちょうど閉園のアナウンスが園内に放送された。まだ遊び足りない子供たちはブーたれ、保護者に連れられて家に帰っていく。カップルたちは最後まで手をつないで園を後にした。彼らの繋がれた手を見て、テファは羨ましさを感じた。
「俺たちは片付けに入るから、ティファニアちゃんは楽屋で休んでなよ。あいつの部屋、まだ残ってるからさ」
「あ、いいんですか?」
「行くとこはまだ決まってないんだろ?だったら好きなだけ泊まって言っても文句は言わないさ。針巣が文句言っても、なんとか繕っとけば問題無し!」
「そんなこと言って、実はあの子が寝てる好きに胸を揉みほぐそうと…」
「憐、あなたそんなことしようと…」
「俺をなんだと思ってんだよ尾白!しかも瑞生まで…そこまで外道じゃないからな!」
まるで計画的犯行を企てているかのように言われた憐は尾白と瑞生にふくれっ面を見せつける。
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