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□File10
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一方で地上。
「く!」
既に地下世界の月がハルケギニア上空の双月の間を挟むように浮かび上がっていた。そしてジャンキラーは、地上で最も厄介だと認識した相手、ミラーナイトとグレンファイヤーに向けて、彼らの頭上からエネルギー弾を連発していた。
〈ジャンキャノン!〉
「うおわ!?あっぶね!!」
「援護しろ」
ペンドラゴンからもワイバーンミサイルが発射、ミラーナイトたちを援護しようとジャンキラーに向かっていくが、ジャンキラーの胸から放たれた光弾によって相殺されてしまう。
〈ジャンフラッシャー!〉
「くそ!あいつの火力、データで測らなくても桁違いです!」
「諦めるな!地球よりはるかに文明が遅れている彼らが頑張っているときに、俺たちがここで折れたらいい笑い者だ!!」
ヒュウガがそういった時、ペンドラゴンの隣ではオストラント号が大砲や、甲板上にいるサイトの仲間たちによる魔法の集中砲火でジャンキラーを攻撃している。
「フレイムボール!」
「ウィンドカッター!!」
「ウィンディ・アイシクル!」
キュルケの炎、レイナールの風、タバサの氷の矢がジャンキラーの、主に目や両手両足の関節部を狙って放たれている。自分より強い相手なら、弱点を付いてでも叩く。それが彼らにできる精一杯だった。
だがジャンキラーには全く通じていない。弱点かと思われた箇所全て、しっかり強度が施されていてビクともしないのだ。
『………ソノ、程度…ヵ?』
珍しく相手をあざ笑うかのようなセリフを吐くジャンキラー。彼の突き出した手の先には、シルフィードに乗って飛び回るタバサと、ギーシュたちの乗るオストラント号があった。
二方向に存在するこの二つを、消しさるつもりなのだ。彼の手の搭載されている発射口に
光が灯っていく。
とその時だった。突然横槍を入れるようにジャンキラーを、ゼロが飛び出してきた。
「デアアアア!!!」
飛び出してきたゼロによって、ジャンキラーは突き飛ばされて地面の上を滑っていった。
そして、ウルトラマンゼロとジャンボット、そしてグレイを乗せたメルバが地上に降り立った。
「ジュワ!」
「サイトだ!」
オストラント号の甲板上にいたギーシュら仲間たちに目に、強い希望の光が宿った。
「サイト君、君があの謎のゴーレムと共に戻ってきたということは、先住民たちは…」
ミラーナイトがゼロに近づく。あのゴーレムが地下世界から飛び出し、そして自分たちの攻撃を仕掛けてきた。それだけで謎のゴーレム、ジャンキラーが先住民側の刺客だと思ったようだ。
「いえ、詳しいことを話すとそんな単純なことではないんです。それより、今は下がりましょう」
「え?」
「あのゴーレムは彼に、ジャンボットに任せておいてください」
ゼロは視線を、ジャンキラーの前に歩き出すジャンボットに向ける。もしあのジャンキラーがジャンボットの弟ならば、彼の声に耳を傾けることもできるのでは、兄弟の絆というものにゼロは賭けてみることにした。
「おいおい!大丈夫なのか?あんな得体のしれねえ焼き鳥に任せておいてよ」
『焼き鳥ではない!ジャンボットだ!!』
さすが機械なだけあって地獄耳のようだ。グレンファイヤーの悪口がすんなりと聞こえていた。
「ルイズとハルナもジャンボットに付いてる。きっとなんとかなるさ。やばい賭けだけどな…」
頼むぜ…。心の中でゼロは彼らに期待することにした。
「ま、すぐ頭にきてしまう短気な熱血バカには任せられないよね」
「あんだとこのガキャア!!!しばくぞ、ああん!!?」
グレイとグレンファイヤーの喧嘩、これは別に問題視しなくていいか、無視しよう…とも心の中で思った。
「まだ会って間もない相手を説得なんてできるかしら…」
モニター越しからジャンキラーを見つめて不安げにルイズは言った。彼女の言うとおり、ジャンキラーとはついさっきあったばかりだ。長い付き合いのある者ならまだ希望が見えるが…。それに奴の目、明らかに自分たちを敵と認知している目だ。
『あなたの声で動きを止めたということは、あいつにもきっとまだ心が残っているはずです。私はそう信じたい』
「ジャンボット、もしジャンキラーがあなたにも、ルイズさんの声にも耳を傾けなくなったら、私があなたを操縦する。たとえどんな結果になっても、それでいいね?」
『ああ、わかった』
ハルナの言葉に頷き、ジャンボットはジャンキラーに近づいた。
「なんだ?サイトたち戦いもしてなければ攻撃もしてない」
オストラント号の甲板上からゼロたちを見下ろしながらマリコルヌが不思議がって言う。
「今はまだ手を出すべきじゃない、ということか…」
ペンドラゴン内のヒュウガも、オキとクマノに一旦攻撃を中断させることにした。
それを見たアンリエッタは、心配になって以前ハルナからもらったビデオシーバーを開いた。
「ルイズ、聞こえますか?」
運良くジャンボットの内部に回戦が繋がり、ビデオシーバーに目を丸くした様子のルイズの映像が映し出された。
「姫様!?」
「一体なにが起こってるんです?あのゴーレムは一体…」
「すみません、現状が現状ですので完結に説明しますと…」
ルイズは地下世界に飛び込んでからの簡単ないきさつをアンリエッタに説明した。地上人への報復のために地下世界の先住民たちが6000年の時間をかけて作り上げてきた兵器に、逆に滅ぼされてしまったこと、地下世界を散策していたらジャンボットの弟が敵として現れたが、もしかしたら説得できるのではないかと考えたこと。
「そうですか、先住民の方々は…」
「姫様はどうか安全な場所に。あとは私たちがジャンボットと一緒になんとかします」
「…いえ、私にも見届けさせて」
「姫様!!」
「私とて、トリステインの女王で…この世界の人間です!!もし始祖ブリミルの血に彼が気づいてくれたのなら、私の声も届くはずです!!」
強く言い放つアンリエッタ。ルイズは彼女の気迫に圧倒されたのか、思わず黙り込んでしまう。と、ここでアニエスがアンリエッタの元に部下を引き連れてやってきた。
「陛下、近隣住民の避難は終わらせました。陛下も避難を」
「いえ、私は…」
アンリエッタはアニエスの言葉にも動こうとせずその場にとどまった。
『ジャンナイン、私がわかるか?』
ジャンボットは手をゆっくり伸ばしながらジャンキラーに語りかけてきた。
『…』
『私はジャンボット。お前の兄だ。分かるか?』
『兄…ダト?』
『覚えているか?あの時代、我々が生み出されたばかりの頃を』
『…何ダ?…オ前ハ何ヲ言ッテルンダ?』
ジャンキラーがわずかばかりに身を震わせた。
『お前は兄弟の中でも最も新しく作られ、その分私を含めた兄たちよりも優れた性能を備えていた。そしてその性能をお前自身も誇りに思っていた。だが、それを兄たちは不快に思っていたな。だからお前は兄弟たちの中で孤立気味だった。そして孤独感を消そうと常に周りの者に生意気に接していた。
それでもお前を支えてくれた主が、ブリミル様とお前を開発したスタッフだった』
『…………』
『正直私もお前が羨ましくあった。性能だけでなく、自分と快く接してくれたあの方たちへの忠誠心も崇高だった。だから、あの時悔しがっていたな…。
我々の母星にスペースビーストの大群が襲ってきたときと、暴走したあいつを消すために我々の星が大爆発で消滅した時…』
『……理解…不能…何ヲ言ッテイル?』
『涙を流したのだよ。ロボットなのにな…』
ゼロたちがジャンキラーと交戦していた頃…。
今ハルケギニア上空に浮かび上がる、元は地下世界の空に浮かんでいた半分に割れてしまっている月の上の塔、それも塔の地下奥深くに存在する場所。
そこに石堀が世界中の闇をかき集めるために用意したレーテが存在していた。シュウヘイの暮らしていたネクサス世界の地球にある、黒部ダムの下の湖の水面下にあるTLT日本支部基地『フォートレスフリーダム』の最も最下層に存在するSECTION−0地点と同じような作りの部屋の天井にぶら下げられている。
まるで闇そのものを大好物のように求め、不気味な光を放ちながら。
「もっと恐怖を吸い込め…」
ネクサスと同じ形のコアから不気味な光を放つレーテを、真下から見上げるシュウヘイ。その時の彼の顔は、いつもの彼とはまるで違う。全くの別人のようだった。
「シュウ!」
そんな彼の後ろから、華奢な少女の声が聞こえてきた。彼が入口の方を振り向くと、彼が大切に思っている少女、ティファニアが息を切らしながら立っていた。その手には、始祖のオルゴールと、指には風のルビーが装備されていた。
「『世界扉』で俺のことを念じ、たどり着いたのか。あの霧はメイジの力も奪うというのに、妙にしぶとさが備わっている」
虚無の魔法『世界扉』は、自分が覗く場所との距離が長ければ長いほど維持できる時間と、ゲートの大きさが限られてしまう。地球とエメラダ星の距離だと、小さくてモニターの役割にしか役立ちそうにないゲートしかできない。始祖のオルゴールで『世界扉』を習得した彼女は密かにジャンボットに乗ってサイトたちについてきていたのは、今の彼女の精神力を少しでも節約し予備の分を取っておくため、世界扉で開いたゲートとその行き先を少しでも縮めようとするためでもあった。
「で……何の用だ?」
冷たい視線をテファに向け、シュウヘイは尋ねる。まるで氷だった。かつてキュルケがワルドの目を見てそう呟いたときのような。
「あなたの話を、聴きに来ました」
「話…だと?」
「あなたは私がルシフェルに取り込まれた際、私を愛してるって言ってくれた。そして自分の身を呈して私とルクシャナさんを助けてくれた。
今までだってそう。あなたは身を削りながらウルトラマンとしてずっと戦ってきた。どんなにボロボロに傷ついても、どんなに命を失いかけても、決して諦めることなく…。そんなあなたが、どうして…?」
今にもこみ上げてくる涙をこらえながら、身を震わせて言うテファ。撃たれた時のことを考えて思い返せば、まるで夢を見せられているような日々だった。当たり前のような幸せな日々、それが崩れる度に自身を光に変えて戦いの場に出るシュウヘイ。見ているだけでも辛かったが、彼が戻ってくるたびにまた訪れる幸せが、彼女にとってどれだけ大切なものだったか計り知れない。
「お前、それで俺を追いかけてきたというわけか。相変わらず甘いやつだな。こんな裏切り者をまだ信じているのか?」
「当たり前でしょ…!!」
「……結局そんな綺麗事をほざいて、心のどこかで俺のことを憎んでいるのだろう…?」
首を妙な方向に曲げ、いつもの彼に似つかわしくない笑みでシュウヘイは言う。
「結局みんなそうなんだ。自分たちで勝手に生み出しておいて、少しでも異常だったり役に立たなければ人間はそいつを簡単に捨てる。そして時が経つにつれて忘れていく。人間はそれと似たような争いを起こすことも何度もあった。自分たちと違うってだけで恐れ、それを滅ぼそうと殺しにかかる。どの宇宙でも、どの星でも、同じことばかり繰り返してきた」
「シュウ…まだ昔のこと気にしているの?あなたが、自分を生み出した人たちから役に立たないからって捨てられて、義理のご両親からも虐待されたこと…」
「…それはこの『器』の記憶のことで、俺のことではない」
思わず、彼女の思考は一時停止した。
『器』?それに、『俺のことではない』?
「どういう…意味?」
「言葉通りの意味だ。今の俺は、お前の愛した男ではない」
シュウヘイじゃない…?
「じゃあ、あなたは…一体、誰なの?」
「一度会ったはずだがな。覚えていないのか?ティファニア嬢。だ
としたら残念だな」
「え?」
このシュウヘイの姿をしている男、なんと自分にあったことがあるという。人違いではともおもったが、ちゃんと自分の名前を知っている。
ならば、一体彼は何者なんだ…?
シュウヘイの姿をした謎の男は、彼女にある方向を指さした。そこには、見覚えのある人物が倒れていた。それを見た瞬間、彼女は目を疑った。
なぜならそこに倒れていたのは、トリステインに引っ越す以前グレイと介して自分を誘拐した男で、シュウヘイの世界では全ての黒幕でもあった悪名高き男、『石堀光彦』だった。
「これって、どういうこと?あなたが倒したの…?」
「違うな、それはもう用済みの器、つまりゴミだ」
「ゴミだなんて、ひどい…」
いくら彼でも人をゴミ扱いするような発言まではしなかった。やはり、彼は本当にシュウヘイではないらしい。が、だとしたら…。
「今の俺はもう『石堀光彦』の名を捨てた者。そして、今度こそ唯一無二の存在となりつつある影の世界の者。黒崎からもう常常聞いていたはずだろう?俺の『正体』をな。そう、俺は…」
「…あなた、まさか…」
テファの顔が、段々と真っ青になっていく。
シュウヘイの姿をした男は、二ヤッと気味の悪い笑みを浮かべ、ただ一言言った。
「ダーク…ザギ」
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