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□File7
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もうゴンドランは愚か、彼の意に賛同する者たちにあとはなかった。
逃げ場がないことを悟ったゴンドランたち数名の貴族たちは逃げ出そうとしたが、銃士隊やギーシュたちサイトの仲間たちが彼らの周りを取り囲んだ。
「おのれ、よくも裏切りおったな『元素の兄弟』!」
銃士隊たちに両腕をつかまされたゴンドランは元素の兄弟たちを睨むと、長男であるダミアンを睨むが、寡黙な目つきでダミアンは詫びれもしない口調で言い返した。
「僕たちは傭兵だ。依頼人は報酬の高い方を選ぶ。今回そこの女王様が、あなたたちがくれたものより高い報酬を約束したからこちらに寄っただけ。あんたらもそれをわかってて僕たちを雇ったんじゃないの?」
「ぐ、くそ!覚えていろこの売国奴に異端女王!貴様らにはいずれ始祖の裁きが…」
「黙れ!民からも女王陛下からも信ずるに値する英雄を、己の私情で殺す貴様らがそれを言うか!」
アニエスの怒鳴り声で捨て台詞さえ遮られたゴンドランたちは押し黙ってしまった。
「聖下、この者たちは責任者である私が母国に連れ帰り次第、厳重な処罰に下します」
「そうですか、わかりました」
アンリエッタの提案に、教皇は頷く。
「残念です、ゴンドラン卿」
「女王!私はあなたとは違ってトリステインのことを考えて…」
手を縛り付けられ、なおも言い訳しようとするゴンドラン。だがそれが一度メイジ不審に陥ったアンリエッタに理解されるはずもなかった。
「言い訳は見苦しいですわ。所詮、あなたも以前レコンキスタに我がトリステインを売ろうとしたリッシュモン高等法院長と何も変わ
りません。国ではなく、私情でサイトさんを殺そうとした、貴族であるべきでない行為をおこなった最低の人間ですから」
嫌がらせを受けたからとか、ウザイからとか、憎かったとか、たとえどんな理由があっても、本来私情で人を殺すことなどあってはならないのはこの世界でも同じなのだ。
「貴様がそれをいうのか!だいたいこんな平民の薄汚い女の衆の部隊など…」
「…」
つばを飛ばしながらなおも捨て台詞を言いまくるゴンドランと彼の意見に賛同する貴族たち。そんな彼らにサイトは黙って近づいた。
「なんだ、売国奴!そんなに私が憎いか」
「…俺が別の世界の人間だから信じられないもの無理はないかもしれません。でも、俺を信じてください。俺は確かにあなたたちとは生きてきた世界は違いすぎてますけど、俺だってこの世界とそこに生きるみんなを守りたいんだ!」
「そんなこと、信じられるか!どうせいずれこの星を…」
「口で言っても流石に信じてもらえないってわかってますよ。だったら、せめて見ていてください。本当に俺がこの世界を手中にしてしまうか否か」
「ふん、そうやって自分はしないと我々に言い聞かせるか…」
結局、サイトを暗殺しようと企んだゴンドランと彼の意に賛同した者たちはこの場で捕まって連行されてしまった。位を奪われて貴族の座から追われてしまったのは、それからしばらくしての時期だった。
「それよか、大変よ!ティファニアの様子見に行っていたら、あの子怪我をして倒れてたんだ!」
ルクシャナの突然の発言に、サイトたちに衝撃が走った。真っ先にルイズが再確認の質問を返す。
「テファが倒れたですって!?」
「そう、肩を撃たれて倒れてたのを見つけたの。しかも、あなたの仲間の…シュウヘイ出会ってるわよね?彼がいなくなっていたわ」
「な、なんだって!?」
仲間たちはまたも驚いたが、特に驚いていたのはサイトだった。あいつが、シュウヘイがいなくなった?どうして?それに、その前にはテファが撃たれて倒れたと。なんだか嫌な予感がする。
「…撃ったのは」
「シュウヘイだってのか?」
床を睨みながら顔を伏せ、震える声でルクシャナに問うサイト。頼むからそれ以上言わないでくれ。聞きたくない。そんなことを考えていた。
「……あの現場の状況から考えるとつじつまが合うもの」
「ざけんな!」
ルクシャナの眼前に詰め寄ってサイトは彼女に怒鳴りつける。
「あいつはテファのこと誰よりも思っていたんだぞ!あいつがどんなやつかだって俺の方が知ってるんだ!なのにシュウヘイがテファを撃っただって?そんな話信じられるか!!」
「お前、ルクシャナに怒鳴るな!」
アリィーもサイトの爆発に怒って彼を背後から取り押さえる。
「離せ!!離せよ!!」
「相棒落ち着けって!」
怒りで暴走しがちなサイトに、背中に背負われたデルフは顔を出して声をかけた。
「だけど…!!!」
デルフに視線を向けて反論しようとするが、ここでギーシュが口をはさんだ。
「デルフリンガーの言うとおりだサイト。いつから君は女性に怒鳴るような男になったんだ?」
「……ごめん」
自然と全身から力が抜けていく。ようやく落ち着いたサイトはルクシャナとアリィーに謝罪した。
「いえ、私も軽率だったわ。ごめんなさい」
「詳しい話、聞かせてもらえるかしら?」
ルイズが尋ねると、ルクシャナはいきさつを話し始めた。
サイトたちがジュリオを止めている間、オストラント号でまだ意識が戻らないシュウヘイの様子を見に行っていた彼女たち。テファが先にシュウヘイの眠る部屋に向い、ルクシャナが食堂から主に果物の食べ物を持って行っていた。しかし、食べ物を探している時、銃声が響き、急いで銃声の聞こえた方へ向かった。その部屋に入ったら、血を流して倒れていたテファがおり、その部屋のベッドで安静していたはずのシュウヘイの姿はどこにもなかったという。
「あの場で銃を持ってたのはあいつだけから…多分…」
「それは絶対!…ないだろ…」
思わずまた怒りそうになったが、サイトはグっと怒りを抑えた。
今度はアリィーが口を開いてサイトたち全員に言った。
「僕たちだってあいつがそんなことをする、非情で冷血な男ではないと知っている。命を張ってティファニアを守り抜いてきた。それを否定するなんて、とてもできない」
「………」
以前は確かに非情な男だったようだが、今は違う。それをサイトたちも知っているし、彼の戦いを間近で見てきたアリィーたちも同じである。
とても信じられない。信じたくもない。
「そのシュウヘイがどこに行ったか、誰か知らないかしら?」
ルクシャナが尋ねてみるが、全員首を横に振った。やはり誰も彼の行方を知らないようだ。
「こっちが知りたいところだな。一体、どこに…?」
誰もが頭を悩ませた。というか、答えが出るはずもない。何しろ彼がどこに行方をくらましたかなんて誰も知らないのだ。
と、ここでテュリュークが話を切り出した。
「冷たいようじゃが、今はいない人物のことを気にしてもしかたないのではないかの?」
「そんな言い方しなくても!彼は、あなたがたを助けたのでしょう!?」
彼の冷徹な発言に驚くコルベールは、抗議する。
「なら、このまま地底にいる先住民たちから攻撃を受けてしまっても大丈夫なのかの?」
「それは…」
もっともなことを言われ、誰も流石に返す言葉が見つからなかった。
彼の言うとおり、いつ地底にいる先住民たちから攻撃されるかわかっものではない。もし攻撃を許せば、自分たちは誤解を招かれたまま滅ぼされるだけだ。
「忘れているとは思うが、わしから一つ頼みを聞いていただけんかの?ゴタゴタが続いてなかなか切り出せんでおったのじゃ」
その問いに、ヴィットーリオが返答した。
「アディールから避難したエルフを保護することですわね。大丈夫です。寧ろこの状況で、エルフの力をお借りしていただくという手が必要性に富んでいますから」
「頼むぞい。アリィー君、君はこのことをビターシャル君に」
「了解しました」
「サイト殿、ミス・ヴァリエール。そして皆様も、これから何が起こるかわかりませんし、今日のところは休んでおいてください。せめてもの詫びで、極上の料理をシェフたちに用意させておきます」
「…」
サイトは床を睨みながら握り拳を作った。まだ、いや彼が本当に納得するなんてことはないかもしれない。テファを撃って失踪したとされたシュウヘイから話でも聞かない限り。
「サイト殿、やはり気になるのですか?」
「当たり前でしょう!姫様だって、あなたにとってあいつは大事な人を窮地から救った恩人じゃないですか」
「ええ、だからアニエスに彼の捜索を命じさせます。それで構いませんか?アニエスも、よろしいですね?」
「私なら、陛下のご命令とあらば」
「ありがとう、ございます…」
サイトはアンリエッタとアニエスに深々と頭を下げた。
この後、アリィーがネフテスで停泊したままのアバンギャルド号で保護されているエルフたちを護衛しているビターシャルやグレンたち炎の海賊たちの元に、竜に乗ってネフテスに一旦帰還し、サイトたちは用意された部屋に案内された。
シュウヘイに至っては、アンリエッタの命令でアニエスら銃士隊が捜索するということで収まった。
「シュウヘイがテファを撃ったなんて…俺は認めない!認めて…たまるもんか!」
かなり憤慨した様子でサイトは廊下を歩いていた。直接テファから話を聞こうと、彼女が寝かされている寝室に向かっていた。ルイズにハルナも心配して彼のあとについてきている。
「でも、本当にあいつだったら…」
「ルイズ!お前までそんなこと言うのか!」
「でも、ルクシャナの証言どおりなら、あの部屋で実際にテファを撃ったのはあいつ以外考えられないもの。その本人だって今は失踪していて姿がないのなら、疑われても仕方ないわ」
「…」
「平賀君、私たちにはまだ先住民の人たちの誤解を解くっていう役目がある。黒崎君のことは、その件が片付いてからにしましょう。ね?」
「…」
ハルナからも落ち着くように言われ、サイトはここでおしとどまることにした。
「でも、テファから直接話を聞きたい。それだけでも…」
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