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□F・真実を解き明かす者たち/File5
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「アカシックレコードを書き換えたのは、始祖ではない。宇宙の難民だった彼らはたまたまこの星を新たな故郷として住み着いてきただけだ。そしてそれをガルト星人が利用しようとした。この星以外にとどまれる場所のない、だから侵略者として排除されるくらいな
ら星に偽るしか手段のない教皇たちも、この大地の先住民であるヴァリヤーグさえ傀儡として利用し、自分がこの星の支配者になるためにな」
つまり、ガルト星人は星に偽ってでも今自分たちの住む世界を守るために影から動き、ヴァリヤーグさえも、ブリミル一族であるこの世界の人間たちが滅んだあとにヴァリヤーグを影から支配するつもりでいたということだ。
「ヴァリヤーグに教皇…いずれ彼らの考えを変える存在がいる。アカシックレコードはそれを予知していた。それが、貴様だ」
ワルドはまっすぐサイトを指さした。
「俺が?」
俺が、鍵だということなのか?急にワルドは何を言い出すのだろうか。
「付いてくるがいい」
ワルドはそう言って、彼らの前を通り過ぎていく。向かった先は、ちょうど人が入り込める大きさの横穴だった。
その横穴をくぐったサイトたちは、不思議なものをその目に焼き付けた。
「これは…」
門のような二十メートルほどの高さの柱が二本たち、その先に光の円が見える。こちら側には、何か丸いものをはめ込むために掘り込まれたのか、手のひらサイズの球体が入りそうなくぼみがほられている。サイトに尋ねられたワルドがそれを見ながら説明した。
「大災厄以前の時代、ヴァリヤーグがアカシックレコードの封印さ
れた異次元へいくために作り上げたシステムだ。始祖は、まだここが陸地だった頃に『ゲート』の魔法でこの場所と自分の作ったゲートを繋ぎ、この大地の地面を踏んだ」
「え、ちょっと待って!だとしたら、ここって…」
「そう、始祖があの時代に降り立ったとされる場所…『聖地』だ」
「じゃあ、これが…シャイターンの門!?」
ルクシャナが驚きのあまり空いた口がふさがらなくなっていた。ここがエルフから恐れられていた場所、シャイターンの門だったというのか。
想像とはやはり違っていたが、自分は以前から叔父の物品を興味本位で調べるために持ち出したりしたことがあってここに隠れることがある。その時に海母と知り合ったのだが、まさかこの竜の巣に…。
「気になったんだけど…」
「どうしたんだルイズ?」
何か思い出したかのように声を出したルイズ。気になったサイトがそれを尋ねてみる。
「教皇聖下はここにハルケギニアの危機を救う魔法装置があるとか言ってなかった?四の四が揃うことで使用できるっていう…」
「え?そんなものがあるの?」
そんなこと初耳だ、とテファは少し驚いたような顔になる。すると、ワルドはキツイ口調で一蹴する。
「バカが。そんな都合のいいものがあるものか。あれはお前たち虚無が四人ともロマリアに集結させるための大嘘だ。
俺がお前たちの仲間であるウルトラマンネクサスとその主人であるそのハーフエルフをさらって、教皇たちの目を欺いたようにな」
ワルドが教皇たちの元にシュウヘイとテファを無理やり送りつけたのも、いずれサイトたちをこの場所に導くための芝居でもあったようだ。
「あ…」
突然テファが何かを取り出した。青い輝きを持つ石、バラージの青い石が光っている。さらに光の線が、台座の上にまで伸びていた。
「これって、バラージで見つけた宝珠ね。もしかして、ここの鍵になっていたのかしら?」
ルクシャナが興味深々な様子で宝珠を見つめる。ワルドは再び言う。
「大災厄の時代ヴァリヤーグ政府の上層部は、このゲートをアカシックレコードへ続く扉への鍵としていた。その宝珠がなければ、たとえ彼らでもアカシックレコードの下へたどり着けないようになっている。恐らく侵入者避けだな。アカシックレコードを書き換えら
れないようにするためのな。とはいえ、ガルト星人は書き換えを完了してその状態のコピーを持ち帰り、ブリミルが書き換えたとヴァリヤーグにホラを吹いた後に宝珠はエルフの遺跡に持ち出されたが」
「じゃあ、これを乗せれば、アカシックレコードのある異次元に行くことができるのか?」
サイトの問いに、ワルドは頷いた。
「ああ、乗せて見ろ」
ワルドに言われ、テファはバラージの宝珠を乗せると、カチッと音が鳴る。門が輝きを増し、白い光で彼らは照らされた。
「この先に、本当の記録が…」
「真実をその眼で確かめるがいい、ウルトラマンゼロ。そして、お前や世界の望む栄光を掴んでいくがいい」
「ああ…」
サイトはゆっくりと、自分たちを照らすゲートの光に導かれながら歩き出した。
「サイト、私も…」
ルイズも着いて行こうとするが、ワルドが彼女の前に立ってそれを止めた。
「行かない方がいいぞ。この先の異次元はミュー粒子を操れない人間には耐えられない。次元を超える途中で肉体が崩壊する可能性が大きいぞ」
「そんな…」
「ルイズ、お前はルクシャナとテファと一緒に待っているんだ。今のワルドなら、俺は信じられる」
「俺を信じる…?ふ、貴様の口からそんなことを言われるとはな」
ワルドはフッと笑う。以前は敵だった男から信頼されるなんて、これまでの人生で一度たりともなかった。
サイトは再びゲートの方に向き直り、その先の光の中に消えて行った。
「……ワルド」
サイトを見送った直後、ルイズはワルドに話しかけてみた。
「どうしたんだ?」
「あなたはどうして、レコンキスタに?」
久しぶりに会ったためか、彼女は聞きそびれていたことを尋ねようと思った。なぜ、国を裏切ってレコンキスタについたのか…。
「…母の願いを、かなえたかった」
ワルドは話した。自分の母がこの場所、聖地と始祖たちの秘密を知ったことで発狂してしまったこと。その母を少年時代に自分の過ちで殺してしまったこと。それ以降領地を放りだしてでも母の願いをかなえようとしたことすべてを話した。
「だが、結局俺は聖地を目指す目的をはき違えていた。闇に心を食われたことでハルケギニアに生きる人間を救うのではなく、支配するほうに傾いた。婚約者や領地どころか、全部なくした俺には何もない。こうやって何かに従って生きている」
「……」
「笑っても構わないぞ」
自分への嘲笑か、彼は薄く笑ったが、ルイズは「笑わないわ」と言
った。
「不幸自慢したって、私がイライラするだけよ。それを売り物にしてるのも私には嫌なものにしか聞こえないわ。私やあなたより不幸な人間なんか、いくらでもいるのよ。それで自分は不幸です、なんて言ったら見苦しいだけじゃない」
ルイズも不幸な時があった。虚無に目覚める以前は魔法の才に乏しいものだったが、それを誰かのせいにまですることはなかった。それ以上に、絶対に見返してやろうという思いの方が強くもあった。そして自分より不幸な人間なんかいくらでもいる。ワルドのような人間はもう珍しくなかった。だからウジウジと過去を思い返すより、彼に未来を見つめて欲しいと思っていた。
「…それもそうか」
と、その時だった。突然どこからか光弾が飛び出してきた。それを歴戦の勘なのか察知したワルドは、光弾の軌道上にいたルイズとテファを突き飛ばす。
そしてワルドの背中に火花が走り、ワルドは血を吐きながらその場に倒れてしまった。
「っぐ!?」
「「「!!?」」」
「大丈夫、二人とも!?」
危険を悟ってルクシャナは二人のもとに駆けつける。急に何が起こったのか理解できないルイズとテファは起き上がって光弾の飛んできた方を見ると、全身が金属でできた姿をしたあの異星人が立っていた。
「ははははははは…」
「あんたね…サイトの言っていたガルト星人って奴は…」
ルイズは太ももにくくりつけていた杖を取り出し、その先をガルト星人に向けた。
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