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□F・ヤプールの巣窟ガリア/File0
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「ん…?」
サイトは目を覚ました。目に飛び込むのはただ広い草原。大木の根本に寝ていた。こんな場所で眠っていたのか?いや、自分はオストラント号の甲板に続く階段の前にいた。そこに怪しげな女が現れ、落ちていた貝殻を拾ってその中を見たら時計を着付け、急に光に包まれて…。
自分だけこの場所に連れてこられる理由がない。なぜここに?
日差しが眩しい。向こうに森と草原が、さらに向こうに山がそびえている。
意識を失う度に、何かと普通じゃない状況に立っている、親子そろって苦労人な気がしてきた。
すると、誰かがこっちに近づいてきた。敵か?そう思って背中に手を伸ばすが、今はデルフも地下水も、ウルトラガンもない。しかし、相手は頭からマントを被っていたものの、ゆっくりと歩いてきている。敵ではないらしい。
徐々に見えてきた顔の輪郭から見れば女性らしい。サイトはまだ顔を合わせてはないがルクシャナが着ているものと似た緑のローブをマントの下に来ている。
「気が付いた?」
女性はローブを上げて顔を見せた。ルイズやハルナ、テファにも匹敵する美女だった。その顔に思わず見とれてしまったが、すぐ顔をパンと叩いて我に返る。年齢は二十歳のようだ。
「水汲んできたわ。飲む?」
暖かくて人懐っこい笑みで差し出された革袋の水を受け取ったサイトはそれを飲み干した。
飲んでいるとき、彼女の耳の先がとがっていることに驚いた。耳がとがっている種族でここと辺りがあるのは一つ。
「あなたは…エルフ!?」
「珍しいわね、エルフを知ってるなんて」
「珍しい?どうして?」
エルフはそんな無名の所属ではないはず。
「さあ、会う度の蛮人たちは私を珍しい目で見てくるもの。全く…ここってどこの田舎かしら」
「田舎って…ここはハルケギニアでしょ?」
「何?はる…?なに言ってるのかわからないわ。ここは『イグジスタンセア』よ」
ハルケギニアを知らない!?だとしたらここはハルケギニアではないということになる。さっきの貝殻の時計が自分に夢でも見せているのか?
ならばと、自分の頭を木にぶつけた。だが夢から覚めない。
あの時、自分に『真実』を教えると言った彼女が自分に何か施したのか?
「あなた大丈夫?」
「夢であってくれなんて思ってます…こんな場所で油売ってる場合じゃないのに」
「私だってそうよ。私の部族、どういうわけか他の亜人たちに目の敵にされてるのよ。こんな場所で遊んでいる場合じゃないのに『あいつ』ったら」
「あいつ?」
問いてみると、エルフの女性がワナワナと震えていた。何か言いたげ度が満載だ。
「あ、まだ名前聞いてなかったわね。私はサーシャよ。あなたは?」
「あ、俺は…平賀サイト。サイトです」
サイトが自分の名を明かした時、雨がぽつぽつと降り出した。彼は木に縁りかかりながらサーシャを見た。エルフなだけあってテファに似た容姿だが、彼女のおっとりした感じはしない。むしろきりっとしている。ローブに包まれたすらりとした長身は中性的だ。以前に敵として会ったビターシャルは恐怖さえ感じるプレッシャーを感じたが、純血のエルフと思われる彼女からは主対面とは思えない親しみを感じた。
「不思議ね」
サーシャはサイトを見返して言った。対するサイトは目を丸くした。
「不思議?」
「あなたとはまるで初対面という感じがしないの。でも、実はまた別の意志があるといった感じがして、すごく複雑。どうしてかしらね」
「どうしてって…」
そんなこと言われても困る。彼女からそう言われると、自分もだんだん彼女と同じ感覚を感じ始めた。
前からあったような奇妙な感覚。デジャヴというものだろうか。
「!」
「どうしたんです?」
「下がって」
サーシャはサイトの前に立った。その眼は戦う者の眼だった。彼女の視線の先に、何か奇妙な、それも殺意のある視線だ。野犬だろうか。
「狼ね。よだれくさいわ。私たちをごはんにするつもりみたいよ」
サイトはその視線の無視である狼を見る。草原から顔を出したその顔は確かに野犬とは違う。彼らの視線に映るのはうまそうな人間二人分の肉。群れを成して狙っている。
「俺が戦いますよ」
怪獣とは違うからいささか気が引けるが、相には話を聞く義理があるとは思えない。デルフがない今武器といえば…。
しかしサーシャは懐から取り出した短剣を手に取ってサイトを下がらせるように手で制止した。
「あなた武器ないでしょ?私に任せて」
彼女が鞘から短剣を引き抜いた瞬間、サイトは目を見開いた。彼女の左手が光っている。それも、自分と同じ古代文字の形で刻まれた青い光。
いかなる武器を操り、かつ使用者の身体能力を向上させる力を持つ…。
(そ、そんな…馬鹿な!?ありえない!!)
サーシャの戦い方は美しかった。身をくねらせてとびかかってきた狼の牙を素早く華麗に避け、隙ができたところで斬る。
「!」
ボケっと見ていたら自分にも狼が走りこんできた。とっさに彼はブレスレットに触れると、銀槍ウルトラゼロランスが出現、手に取った瞬間左手の輝きと共に飛び上がって、地上に群がる狼の一匹に急降下、背中の辺りを串刺しにした。
「ぎゃう!」
まだ襲ってくる。サーシャとサイトはそれでもひるむことなく狼たちを迎え撃つ。素早く消えたかと思えば狼たちの背後に現れ、叩き伏せる。
僅か数秒でほぼ全滅した。残った狼に武器の矛先を向けると、狼たちは尻尾を巻いて逃げだした。
「片付いたわね」
「はい。それにしても…」
サイトはサーシャの左手の甲を見る。やはり見間違いなどではなかった。あの左手に刻まれているのは、まぎれもない…。
「あなたも『ガンダールヴ』だったなんて…」
「やっぱりあなたも?通りでさっきあなたの左手が光っていたと思っていたら」
サーシャもリアクションが薄かったものの、自分と同じルーンが見知らぬ男の手に刻まれていたことに驚いていたようだ。
しかし、なぜサーシャの左手にも刻まれているのだ。人間とエルフは対立関係にある。それにもう一人いることなんて普通あるのだろうか?
これも、あの奇妙な女がもたらした魔法なのか?それとも、かつてサイマという、パラレルワールドのおけるもう一人の自分がいたように、この世界はハルケギニアとは違う虚無の担い手が存在する世界なのか?
今のところ唯一の手がかりは彼女を使い魔にした主人だ。
「サーシャさん、でしたっけ。あなたはどうしてここに?」
「はあ…できれば思い出したくないんだけど?」
ビクッとサイトは身を震わせた。女性の聞いてはならないことを聞いてしまったか。
「私もなんでここにいるのかわからないわ。ニダリベールはどこの方角かしら?全く、実験に付き合わされる身にもなってよね」
「実験って、何のことです?」
「あいつ、野蛮な魔法で私を実験台にするのよ」
エルフが野蛮という魔法…虚無のことだろうか。現にビターシャルは虚無の力を嫌悪していたし、ありえない話とは思えない。
と、二人の前に鏡のようなものが現れた。これには見覚えがある。ルイズの作ったサモン・サーヴァントの扉に酷似している。なんだろうと思った次の瞬間、サイトはサーシャ険しくなっている顔を見た。まるで切れたルイズのように、それ以上に現すと般若のような
恨みのこもった凶悪な顔。
怖い…。身を強張らせながら少し彼女から離れた。下手をしたら暴発する火薬庫のように思えた。
鏡のような扉から飛び出してきたのは、小柄な男だった。真面目そうな小柄の若い男で、短い金髪。裾を引きずるローブが羽織られている。
「ああ、やっとここに開いた。ごめん!ほんとにすま「この…」へ?「蛮人がああああああああああああああああああ!!!!!!」へぼしぃ!?」
小柄な男が言い終える前に、サーシャは男に、レオでさえ驚きそうな勢いのハイキックをお見舞いし、男は派手に回転しながら吹っ飛ばされ、木にぶつかった。落ちたところで椅子代わりにドスンと腰かけた。
「あなた、約束を忘れたの?」
「えっと…その…」
「はっきり言うことね、蛮人」
「蛮人ですいません。ごめんなさいぼあ!?」
サーシャはまた男を殴った。
「もう私をあなたの実験に使うなって約束したわよね」
「したにはしたけど、他に頼める人がいなくって…それにこれは実験ではなく魔法の効果がどれほどかのものを調べて…」
「そーゆーのを実験というのでしょう?」
「し、仕方ないじゃないか!僕たちの一族を存続させることに必死な時にあの連中が!」
「大体ね、あなたは生物としての敬意が薄っぺらなのよ。私は高貴な一族のエルフであんたは蛮人。自分たちより高貴な種族の女を使い魔として召喚したんだからそれ
なりの敬意を持とうとは思わないの?思うどころかやれ、記憶が消えるか試してみようか、遠くにに行ける扉を開いてみたよ、くぐって見てくれとか…」
「そうはいっても、僕たちの一族は先祖の行いのこともあって数が僅かなんだ!ヴァリヤーグたちは強い。奴らと戦うにはこの奇跡の力、魔法を使うしかないんだ!」
「私から見ればあなたたち蛮人もヴァリヤーグも変わらないわ!」
まるで自分の日常と似ている光景だった。あのサーシャは自分と同じガンダールヴだが、キャラ具合はルイズだ。自分たちエルフの高貴さを自慢する言葉を説教(?)の中に混じらせている。自分が虚無の担い手だったとしても、ルイズにはきっと敵わない。そう実感
すると、自分とあの男性に対して同情を抱くあまり泣きたくなりそうだ。
この男性がこのイグジスタンセアの虚無の担い手らしい。
「そ、そうだ。そこの彼は?」
「えっと、そこの男の子のこと?」
サーシャと男に見られ、サイトはとっさに気を付けして自己紹介した。
「ひ、平賀サイトです。変な名前でしょうけど」
「そうそうブリミル、この子の左手にも私と同じものがあるのよ」
「同じだって!?ちょっと見せてもらえないかな?」
サイトは男に言われるがまま左手を見せると、男は飛びつくよう左手のガンダールヴのルーンに注目した。
「間違いない!ガンダールヴだ!魔法のように素早い小人!」
「いや、俺は小人じゃないんですけど…」
変身さえすれば小人より小さくなれる、とは言わなかった。
「そうだ!君の主人に会わせてくれ!君の主人もこの変わった系統が使えるのだろう!?お願いだ!」
このとおり!というように男は両手を合わせてサイトに頼むが、申し訳なさそうに、どこか彼の剣幕に辟易しながら後頭部を掻いた。
「できれば力になりたいんですけど、俺はここに飛ばされてきた理由がはっきりしてなくて…」
いきなり怪しい女だの貝殻だの話して信じてもらえるだろうか。
「そうか…」
男はがっくりした様子で肩を落とした。
ん?サイトは今さらながらあることに気が付いた。サーシャはこの男の名前をはっきりこういっていた。
『ブリミル』と。
ブリミルと言えば、ハルケギニアでは『始祖』とあがめられている、いわば神のように崇拝された者の名前。虚無の担い手で、四人の使い魔を従えた…。
まてよ、だとしたら今自分がここにいるのは…パラレルワールドのハルケギニアというより…。
「!」
サーシャはさっきの狼が襲ってきたときの時のように目つきを変え、懐から短剣を取り出した。
「狼以上に厄介なのが来たわよ」
「ああ…ヴァリヤーグのレイオニクスとやらが従えている化け物か」
「レイオニクス!?」
この単語にもサイトは過敏に反応した。レイオニクスと言えば怪獣を操る機械バトルナイザーを持ち、それを唯一使用できる者たち。(こんな得体のしれない場所にもいたのか…)
一体この世界はどうなっているんだ。さっきから疑問だらけだ。始祖をあがめられた者と同じ名を持つこの男、自分と同じガンダールヴのルーンを持つエルフの女性サーシャ。
でも驚くのはこれだけではなかった。
「ほら、噂すれば」
サーシャが空を見上げると、おぞましい姿の怪獣が自分たちを見下ろしていた。
『フィンディッシュタイプビースト・ガルベロス』。さっきの狼の憎しみを現しているようなその視線は、ただ自分たちを食べることしか考えていない。
「グルルル…」
「ブリミル、少しはまともなサポートできたら、今回のこと水に流してあげる。でも援護できなかったらあとできっついお仕置きするから覚悟なさい」
「はは…前慮するよサーシャ」
ブリミルは苦笑した。
この時のサーシャは敵をじっと見て、剣を引き抜く剣士の姿勢だった。手に握られている短剣一本でどうするつもりなのだ。
だが、それはたかが短剣ではなかった。それに気付いたサイトは、驚愕の連続で心臓が止まるような、一瞬あたりの音が聞こえなくなったような感覚を覚えた。
馬鹿な、この人は一体何者なんだ。
だってあれは…
あれは…
あいつが持っているはずのものじゃないか!
サーシャが持っている短剣は、自分が信頼する戦友の持つアイテム『エボルトラスター』だった。
案の定彼女はそれを引き抜き、赤い光に包まれると、光が晴れた時には銀色の巨人に姿を変えていた。
「ウルトラマンネクサス!!!!?」
「グルル…!」
勇ましくも、女性らしさのある甲高い掛け声とともに、サーシャの変身したウルトラマンネクサスは、ガルベロスを睨みながら身構えた。
「デア!」
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