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□File5
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「憐と暮らしてた楽屋よりひどいな…」
思えば、地球で暮らしていた時我が家として使っていたあの楽屋は寝室以外散らかっていた。動物や仮面ライダーの着ぐるみやら、飲みかけのコップやら、脱ぎ捨てられた服とか。結局あれ全部憐によるものだが…。
この家の主も相当片づけ…いやこれは片づけの上手下手で起こるものじゃない。わざとらしい。明らかな変人なのだ。恐らく。
(そうだ!テファはどこだ!?)
起き上がろうと両手をベッドに押し付け立ち上がろうとしたとき、何かがモゾッと動いた。
布団をかぶっている何か、自分の横が盛り上がっている。
恐る恐る布団を捲ってみると、そこには思いがけない人物がいた。
「テファ!?」
攫われたはずのテファがそこにいたのだ。いつの間に着替えたのか、緑のゆったりとしたローブ姿だ。
「…シュウ?」
テファは起き上がって自分の顔を見る。しばらく電源が入っていないかのようにボーっといていたが、意識を手放す前のことを思い出した。
「ここはどこなの?確か私たち、タバサさんを助けにアーハンブラ城にいたはずじゃ…それにこの服…」
自分の記憶では、アーハンブラ城に忍び込む時の変装として踊り子服を着ていたはず。いつの間に着替えさせられたのか。
「これ、エルフの服だわ」
「何?」
「母さんのローブと似ているもの。でも、誰なんだろ…シュウは覚えてないの?」
そういえば自分も砂漠で意識を失ったはずだ。なぜここにいるのだろうか。ともあれ、自分が知ってることを話しておくことにした。
「…お前は攫われたんだ。妙なエルフの女に」
「え?」
「アーハンブラ城の兵士を眠らせ、別行動を取っていた俺たちは合流しようとした。だが、どこからか現れたエルフにお前が眠らされ、ここに運ばれたと…」
「そう…」
誘拐されたタバサを助けに来たのに、自分が誘拐されるなんて、なんて間抜けなのだろう。自分の不甲斐なさを呪うテファ。
「自分だけ悪いなんて思った顔をするな。俺もなんでここにいるかわからない」
「え?」
「お前を攫ったエルフを追って砂漠越えしていたら見失って、暑さに耐えきれなくて意識を無くしたはずだったんだが…」
窓の外を見ようと窓を開けに立ち上がった時、扉が開く音がした。入ってきた人物を見てテファは思わずバッ!とシュウヘイの前に立ち、扉とは逆方向に無理やり向けさせた。
「お、おい。どうした?」
「見ちゃダメ絶対!」
自分を逆の方に押さえつけ、いつになくヒステリックな彼女の声に動揺するシュウヘイ。なんだか羞恥心を抱いたような感じだ。
入っていたのは若い女エルフだった。ここまでは普通だろう。だがテファがシュウヘイにその姿を見せなかったのは、その女エルフがまさかの全裸だったからだ。おそらく風呂に入っていたからなのだろう。吊り上った切れ長の瞳と無造作に刈りそろえられた長髪。ルイズをテファを足して二で割った顔立ち。胸はさすがにテファほど大きくなかったが美女と言っても過言じゃなかった。
「あ、起きたんだ。別に隠さなくたっていいのよ。蛮人に見られたって減るもんじゃないし」
エルフの女は気にしてないというより興味なさげに着替えだす。どうもシュウヘイを男性として見てもいないようだ。これをサイトが見ていたらこう思うだろう。
―――俺が召喚された頃のルイズだ!と。しかし、ルイズが嫉妬心と対抗心とプライドなどによるものに対し、あのエルフは素だった。
「私が気にするんですう!!」
顔を真っ赤にして言うテファ。
女エルフが着替え終わったところで彼ら三人は同じテーブルで向かい合った。
「質問があるなら何でも言って。あ、私はルクシャナよ。あなたとは二度目ね」
ルクシャナ…女エルフはあの時テファを攫ったエルフ本人だった。
「じゃあ手始めに、ここはどこだ?」
「サハラよ。エルフの国『ネフテス』」
それを聞いてテファとシュウヘイは窓の外を見た。蘇鉄のような木々の間から見えた景色…辺りは砂漠で覆われ、人間たちの住める場所など見当たらない。
「ここが、母さんの故郷…」
「もうわかったでしょ?ほかにないの?」
ルクシャナが早く話の続きを聞きたがるように言うと、再び二人は椅子の座り、シュウヘイは再び質問した。
「なぜテファを攫った?」
冷静に質問するシュウヘイ。椅子の上で腕を組みながら放つその眼光に警戒心が宿っていたことで、テファは少し不安だった。彼がルクシャナに手を上げるのではと。
「議会の爺さんたちからの命令よ。悪魔の様子を探れって。もし発見したら誰でもいいから一人攫って来いって頼まれた」
「『悪魔』ってなんだ?」
「知らないの?あなたたち蛮人の言う『虚無』、私たちにとっての悪魔の力をそろえようとしている奴がいるのよ。もし四人揃ったら『シャイターンの門』を狙いに私たちの国に攻め入る。そうなる前に一人でも攫わなくてはならなかったの。蛮人の軍か数が多いそう
だし、勝手に私たちの土地を『聖地』だなんて抜かすし、迷惑だわ」
彼女の話からすると、虚無の担い手が四人揃うと、人間が戦争を起こすとされているらしい。『聖地=シャイターンの門』を狙いに。そんなに重要な場所なのか?でも、一つ腑に落ちないことを思いついたシュウヘイはルクシャナに尋ねた。
「エルフの連中は精霊の力を持ってすれば、わざわざ攫わなくても何とかできたんじゃないのか?お前たちの言う蛮人の魔法より少なくとも強力なはず」
「エルフの統領の意志なのよ。蛮人の国に攻めるなって。あの方は戦いが怖いそうだから」
「で、戦うことなく解決するために悪魔の一人であるテファを攫ったってわけか」
ここまで恐れるとは、ブリミルの『虚無』とはどれだけ恐ろしいものなのか、世界を破滅させかけたというのが本当だとしたらウルトラマンが立ち向かっても返り討ちにされるのだろうか。
「本当ならカスバの監獄にあなたと彼女、監禁されるところだったのよ。でも、私の研究に付き合ってほしかったし、今後のあなたたちの処分を議会で決めるまで私のところで預かることにしたの」
「勝手だな…」
まあ自分もそうかもしれないので敢えて追求しなかった。
「それほどまで虚無は恐ろしいか…」
「ええ。6000年前、あなたたち蛮人の言う始祖ブリミル…シャイターンがその魔法で大災厄をもたらしたって言われてるわ。私たちエルフはそれを防ごうとあの場所を監視してるの。さっきも言ったように悪魔の末裔たちを、密かに観察しながらね」
自分の力がそれほどまでに恐ろしいものなのか。そう不安げに感じたテファの目に雲がかかった。
「で、これから俺たちをどうする気だ?」
「どうもしないわ」
「なに?」
「あなたたちがそろわなければいいの。だから死なれても困るのよ。悪魔の守り手であるあなたにも。もし殺したり死なせたりすれば、違う誰かに悪魔の力が宿るのよ」
シュウヘイを見ながらルクシャナは言った。悪魔の守り手とは、虚無の使い魔のことだ。心当たりがあるのは、サイトとジョゼフの使い魔であるシェフィールドだ。
「ま、ここでおとなしくしていれば十分よ」
「いつまでいるんだ?」
「そうねえ…一生かもしれない」
それを聞いてテファは泣きそうになった。暮らしなれた場所から引き離されたら誰だって嫌な気分だ。シュウヘイも無論このことにはごめん蒙りたい。彼女の手に、安心させるつもりで手をそえると、彼女はその手を握ってきた。
「それに、この娘悪魔であるだけじゃなくて、ハーフなんでしょ?」
「え?あ…はあ…」
いきなり話しかけられたためか、ついため息のような返事をしたテファ。
「私すううううううううっごい興味あるのよ!この部屋見てのとおり、私は蛮人を研究してる学者なのよ」
それからルクシャナは二人に次々と質問攻めした。内容は至ってどうでもいいものだらけで、何を食べてるのか、住んでいる家の形だの生活習慣はどのような感じだのと王政、農業、商業などを次から次へと。テファは世捨て人同然の田舎暮らしだったし、シュウヘイ
も元々地球人だ。返答に困るだけだった。面白いこと聞けそうだったのに…とルクシャナは残念な顔をした。
「ところであなた、ハーフなのよね。目が蛮人に近いからわかったけど、やっぱりいじめられるの?」
いじめ、そう考えると心当たりはある。ベアトリスの似非異端審問にかけられた時だ。
「最初はそうだったけど、今はあんまり…」
「ふーん…なるほど」
受け入れる人が皆無とまではいかないようだ。
「思ったんだけど、あなたどうやってここまで来たの?普通の蛮人は愚か、エルフでも何らかの対策無しで砂漠越えなんてできないわよ?」
そういえば、自分はどうしてここにいるのだろうか?自分を徹繰り運んだのはルクシャナかと思っていたシュウヘイはそれを聞かれて微動だに驚いた。
「いや、俺にもわからない。砂漠の真ん中で倒れたと思っていたが…」
「嘘よ、だってあなた、いつの間にか私の家の庭にいたじゃない。ぶっ倒れてたけど」
「違う、本当にわからないんだ」
「はあ、本当に何もわかんないの?面白い仕掛けでもあったのかなって期待してたのに…」
期待外れな様子でルクシャナはため息を着いた。しかし、あるものを見て彼女は好奇心あふれる目でシュウヘイを見た。
「いや、もう一つ気になることがあった!あなたのそれ、一体何?」
彼女が指を刺した方に会ったのは、シュウヘイの左腕に装着されたパルスブレイカーだった。
「これは…通信機だ。遠くにいる人間と話せるんだが…」
試しに彼は誰かと通信を入れようと電源を入れたが、ザザ…と砂嵐が表示されるだけで何も反応がなかった。
「ダメか…砂漠の影響でつながりにくい」
「蛮人ってこんなものまで作れるの?ちょっと分解しても…」
「ダメに決まってるだろ。スペアもないんだこいつには。あと、これはこの世界で作られたものじゃない。俺の故郷で秘密裏に作られたデバイスだ。そう迂闊に企業秘密は明かせない」
「だったら余計気になるじゃない。ね、ちょっとだけでいいから…」
「ダメだ」
「ええ〜、蛮人のくせにケチ」
「蛮人蛮人言うな。名前で呼べ」
「名前…そういえばあなたたちの名前聞いてなかったわね」
「シュウヘイだ。こいつはティファニア」
「ティファニアに、しゅ…?覚えにくいわね蛮人の名前って」
と、ルクシャナはここで眠たそうにあくびした。
「眠くなったから昼寝でもしようかしら。ごはんは用意しておくから食べときなさい。
後、逃げようなんて思わないでね。砂漠に出れば半日で日干しになるし、私はここの精霊と契約してるから、襲おうとすればあなたたちは一瞬で灰になるわ。ちなみに最近化け物が何体も出てきてるから軍の守りも固い。見つかれば捕まるわよ。特にハーフのあなた、
今頃強弁派っていう悪魔を徹底的の殺す連中もいるから、出ない方が賢明よ。それもハーフだから余計に軽蔑の対象にされてね。
貴重な研究対象無くしたくないから以上三点よろしく」
さらりと恐ろしいことを言い、ルクシャナはその部屋から出てしまった。
「…」
出られない、というのは本当だろうか?いや、はったりである確証だなんてどこにもない。ビターシャルの使う精霊の力を直に見たのだから、ルクシャナを襲えばあのような反則技が自分にも炸裂するかもしれない。変身して立ち去ろうにも目立って軍に見つかりやす
いし、彼女を抱えて出ようにも、彼女が砂漠の熱に耐えられるとは言い難い。それに、ストーンフリューゲルを使おうにもデュナミストである自分以外乗せることはできない。使ってる間にテファを一人にしたらどうなるか分かったものじゃない。
自分たちを見つければ即抹殺なんて考える連中もいると彼女の口から明かされた。
まさに、八方ふさがり。
でも、不思議だ。ここもさっき自分がいた砂漠のように暑いはずなのに、あまり暑さを感じない。考えてみればルクシャナの肌は砂漠暮らしにしては白かった。
何か仕掛けでもあるのだろうか?そう思って彼は外に出てみた。それに続くようにテファも後に続く。
庭からわざと出ようとして、庭のオアシスを超えて砂漠の方を歩いてみたら、突然肌が焼けるような熱が彼を襲った。
「っぐう!?」
とっさに彼はルクシャナの家の方に戻った。
「どうしたの!?」
「この先に出てみようとしたら、いきなり暑くなった…」
漫画でよくある結界でもあるのだろうか?そう思って目を凝らしたら、本当にその通りだった。薄い蜃気楼のような幕が彼女の家を囲んでいる。これが日光をある程度遮断し、程よい環境に調節していたのだ。
「エルフの魔法ってすごいのね…」
テファもそれに気付いて素直に目を丸くした。まさか母の故郷でこんな技術が発達していたとは。地球ともまるで違う味の技術にシュウヘイも驚いていた。
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