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□File3
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数分後、一旦踊っていた女性陣は休憩に入った。男性陣は飲み干されたジョッキの片付けに取り掛かっている。だがここで一つ問題があった。
「あの男爵が女性全員を集めて妾を一人指名するですって?」
それを聞いたモンモランシーは顔を青くしていた。下手をすれば、男爵のいいようにいたぶられ、辱められる、女性としては絶対に味わいたくない状況に陥るのだ。
「ええ、あの男爵私たちのこと気に入ったみたいなのよ」
「それがどんな屈辱かキュルケも知ってるでしょ?」
「とにかく、何とか適当に、もちろん最悪の事態のならないうちに相手して男爵の目を切り抜けましょ。時期に城中の兵士たちは薬の効力で眠らされるはず」
「もしかして、全員で?」
「ええ、全員の中から選ぶのよ。今夜の相手をね」
「寒気がするわ…あの男爵見た目からしてデブっちょで全然イケてないもの…」
嫌悪感のあまり身震いしたモンモランシー、キュルケも全然惚れてもない、それもあんなけだものの塊みたいな男に言い様にされるなんて貴族以前に女性としての屈辱感で一杯になるに違いない。
「適当に相手して、逃げ切ればいいんでしょ?どうってことないじゃない」
二人の間にルイズが口を挟む。ハルナとテファ、イルククゥもそれを聞いていた。
「あんた、そんな簡単に済む話じゃないのよ。もし、あの男に抱かれてごらんなさい。お嫁にいけない、なんて程度じゃすまないわよ。迂闊に魔法使うと怪しまれるし」
「それはそうだけど、ここであいつの要求飲まなかったら、怪しまれるんでしょ?」
ルイズの言うとおり、タバサを助ける前にここで男爵の機嫌を損ねてしまえば、城から追い出されるかもしれない。そうなったらタバサを助けるチャンスを永久に失うのだ。
「だったら、奥の手を使うまでよ」
奥の手、そのキュルケの提案で呼び出されたのは…
「…俺?」
予想した人もいるかもしれないが、女装したシュウヘイだった。
「そ、魔法なしでも強い上、女装してるあなたも連れて行けば、何とかなるかもしれないわ」
「話は大体分かった。だがツェルプストー、俺が選ばれる可能性なんてあるのか?」
「じゃああなた、テファがあの変態男爵にいたぶられちゃっても言い訳?」
キュルケにそう言われ、絶句するシュウヘイ。テファをちらと見て、すぐに答えを出した。
「わかった」
「ふふ、決まりね。頼んだわよ、テファの騎士」
「騎士ってなんだよ…」
「なんか不安です…」
うまくいけるか、心配になったハルナに、ルイズが喝を入れるように言う。
「しっかりなさいハルナ、ここで不安になっても仕方ないわ」
なるべく手っ取り早い方がいいだろうと思い、男性陣に時間を稼ぐように伝え、こうしてシュウヘイ含む女性陣は男爵の部屋に向かうのだった。
ちなみにこのことを男性陣に言ったとき、女性陣に恋人のいるサイトとギーシュが血眼で男爵を半殺しにしたくてしょうがなくなったのは言うまでもない。

―――イーヴァルディが竜の洞窟に入った頃、ルーは暗い部屋の中に閉じ込められていました。
そろそろクライマックスの場面を読んでいる中、ビターシャルが入ってきた。
「時期に薬が完成する。その前に旅芸人の一座の芸を見に行くか?」
「情けはいらない…」
「そうか…」
どこか彼女を憐れむように、ビターシャルは部屋を後にした。
「私に、イーヴァルディは…勇者はいない」
扉が閉まるのと同時に、タバサは母親のベッドに顔を埋め、泣き崩れた。

男爵の部屋に着いたシュウヘイたちは、男爵の前に一列に並んだ。しかし、ここで予想だにしないことがあった。男爵の護衛兵が二人いたのだ。
(まずいわね…まだいたなんて)
キュルケは誰にも見られないように唇を噛み締める。なんとかあの二人からも意識を奪っておかなければ。
「どうした?固まっているな」
「た…大変光栄なことなので緊張しておりますの!」
にやける男爵に、ルイズが身を強張らせて答えた。
「そうかそうかかわいい奴らだ。さて、誰にしようか…」
男爵は一列に並んだシュウヘイたちに近づいてハルナ、テファ、ルイズ、シュウヘイ、イルククゥ、キュルケ、モンモランシーの順で彼女たちの顔を観察していく。
「お主はら容姿が美しいな」
「い…嫌ですわ…」
屈辱感を我慢しながらモンモランシーが言う。顔に浮かべた作り笑いがかなり引きつっていた。
「うーむこの珍しい夜空のような黒髪の娘もいいな。いや、この女子も悪くない」
男爵はハルナとテファの顔を凝視する。無論見られていたハルナは内心凄まじい怒りをにじませ、テファは恐怖で思わず身縮めた。
「それともこやつがいいか?」
続いて男爵が見たのは、シュウヘイ。素で目を合わせたくないためか、男爵が自分の顔を見るたびに、男爵の顔とは違う方に目を背けていた。
「決めたぞ、今夜の相手は…」
再び一同の列を一通り見回り、男爵は今夜の相手を指差した。
「この桃髪の娘っこと、この骨太の娘だ!」
桃髪の娘、無論すぐにルイズなのはわかった。そしてもうひとりの『骨太』の娘…。男爵も含め、女性陣は一斉にある人物の方に注目した。
骨太の女性…シュウヘイに。
「いや、ちょ…ちょっと待て!いや、待ってください!!」
まさか、『男性』である自分が選ばれるとは全く予想していなかったシュウヘイは顔を真っ青にした。
「ふふふ…その拒むしぐさが可憐だ。そしてもう一人選んだ娘もよい。特にその胸!」
「…はい?」
シュウヘイの容姿だけではない。男爵はルイズの胸に釘付けだった。あの真っ平らな彼女の胸に。人の好みは人それぞれというが…なんでしょう。この妙な不快感のような感情は…
「この胸かわからぬぺったんこさが私の胸をくすぐるのだ!」
男爵のまさかの貧乳好きという本性を知ってこれまでの人生で最もドン引きしたルイズ。顔が凄まじい勢いで真っ青になった。
(ががが…我慢よ!ここで負けたらタバサを助けられなくなるんだもの…)
他の女性陣は選ばれなかった安心感より、複雑な気分で一杯だった。ルイズより体に自信のあるキュルケやモンモランシーはどこか負けた気がしていたが、何より万階一致でこう思っていた。
まさか「男」が選ばれるとは。
「さて、兵よ。後はお前たちにやる」
「「ありがたき幸せ!!」」
二人の兵士はすでに声が上がっている。相当嬉しかったようだ。シュウヘイは他の女性人たちの顔を見ると、彼女たちは(しっかりね)と励ますつもりで頷き、キュルケを先頭に兵士たちに連れられた。
(ほら、適当に相手して出ましょ)
(あ、ああ…)
二人以外の女性陣が出払った後、瓶を手に取るルイズ。シュウヘイも少々冷静さを取り戻し、トレーにグラスと瓶を乗せ、男爵に近づく。
「お、お注ぎしますわ」
ルイズが瓶を手に取り、男爵のグラスにワインを注いでいく。先ほどからこちらを見ている男爵視線に耐えながら。
「お前たちはわしのことをどう思う?」
男爵が二人に聞きたくもない質問を投げかけてくる。真面目に付き合う暇なんてないので、少々遠まわしに答えることにした。
「ええ…」
シュウヘイが慣れない高声で言う。
「『ええ』とはなんだ?わしのことが気に入らんのか?」
「…私は、男爵様をお好きになれませんわ」
「申し訳ありませんが、私もです」
「なんだ?ずいぶん冷たいことを言う女子だ。そういわずもっと語り明かし、『イイコト』もしてみようではないか?」
「だって…」
そう言ってシュウヘイはドレスを掴みだす。
「俺はあんたのような薄汚い豚野郎はお断りなんでね!」
バッ!とドレスとカチューシャを脱ぎ捨て、元の黒の薄い上着と赤いシャツの姿に変わり、手に持ったエボルトラスターからシュトロームソードを構成、刃先を男爵に向けていた。ルイズは太ももに括り付けていた杖を男爵に向けていた。
「な、お…男!?貴様よくもだましおったな!!ただの旅芸人の一座かと思えば…」
まんまとだまされた男爵はのど元に突き付けられた剣を前にして動けず、ただ骨太の美女の正体だったシュウヘイを睨む。
「さて、悪いけどあんたみたいな変態男爵に構ってる暇はないわ」
「…よい夢を」
ドゴ!バキ!ザシュ!ドゴオオオン!!
瞬間、男爵の意識は昇天するかのように途切れた。
「キュルケたちが心配だわ。急いでいきましょう」
「わかってる」
二人は男爵の部屋を出て、キュルケたちのいる部屋を探し始める。が、ここで予想もしていなかった事態が起こっていた。
「待ちなさい!テファを攫ってどうする気?」
廊下の向こう側からモンモランシーの声が聞こえる。テファを攫って?いったいどういうことなのだろう?
すると、二人の前にフードを被って顔を隠していた何者かがこちらに近づいてきた。手には、何か大きいものを抱えている。
「二人とも、そいつを捕まえて!!どういう気か知らないけど、テファを攫おうとしてる!!」
「「!?」」
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