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□File2
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どう表情を作ればいいのかさえ分からず、顔を伏せるシュウヘイにキュルケはブーたれるように言う。
「でも、かわいいですよ本当に。イメージがガラって変わった」
「ええ、ギーシュが見惚れるほどだもの。女としては嫉妬したくもなるわ」
「今度その格好でこの店の妖精さんたちと働いたらどう?いつも以上に繁盛するわよ」
「お姉さまほどじゃないけどかわいいのね!きゅいきゅい!」
「うわあ…君女の子やっていけるんじゃないか?」
「ああ、顔見知りじゃなかったら話しかけていたぜ」
ハルナ、モンモランシー、ジェシカ、イルククゥ、レイナール、ギムリの順で感想を言うが、彼の精神を削り取るものでしかなかった。
こんな場所を、憐をはじめとした仲間たちに見られたら明らかに馬鹿にされるか、怒られるか、またはドン引きされるか…彼らに見られなかったのはまさに不幸中の幸いだ。
『だははははは!!!お前どうしちゃったんだよその格好!』
『かか、かわいい…ぷぷ、はは腹が痛いひひひひ!!!』
今の自分を見て笑うのは間違いなく憐と、先輩の詩織だ。その二人が馬鹿笑いする光景が浮かび上がる。
こうなったらテファに助けを求めるしかない、とテファの方を見るシュウヘイだったが…
「シュウ、かわいい!」
肝心の彼女は笑顔で褒めてしまった。
が・く・ぜ・ん…テーブルの上で彼は撃沈し、自分が何かいけないことを言ったことに気付かないテファはオロオロしだしたとか。
そんな中、シエスタがサイトの前に来た。彼女だけ着替えておらず、元のメイド服のままだった。
「サイトさん、私もミスタ・コルベールに着いて行きます。私が行っても足手まといだから…」
やはりシュウヘイの言葉を大きく受けてとめた結果、サイトと別行動をとることにしたのだ。
「そっか…その方がいいよ」
「でも心はいつも繋がっていますからね!」
そう言ってシエスタは豊満な胸を押し付けながらサイトに抱きつく。
「ちょっ、シエスタ!二人が見て…」
抱き着かれるサイトを見て、ルイズ、ハルナは鬼の如き目つきで睨んでいた。
「よし!ミス・タバサ救出に向けて、出発!」
「「「おおおおおー!!」」」

そして夜、タバサ救出作戦が開始された。
まずこちらはコルベール、シエスタ、ギムリ、レイナールの四人。学院の外に、鎖で地面に固定されたオストラント号とホークの近くの木に隠れていた。
「見張りの兵士が…なんて数だ」
ギムリの言うとおり、オストラント号の周りには数多くの見張りの兵士たちが張り付いている。昼間のサイトたちの脱獄と同じタイミングであの船が現れたことで、サイトたちとの関係性があからさまなことが読まれたのだ。
「どうします?」
「仕方ない…シエスタ君。脱ぎたまえ」
「脱ぐって…ええ!?」
それを聞いてシエスタの顔は真っ赤になった。脱ぐ、つまり色字掛けの手を使えということだ。実際コルベールも良心が傷んでいるだろうが、今一人の生徒が危機なのだ。いちいちこだわっている場合ではない。

その頃のサイトたちは、町から大分離れた場所にいた。
「あいた!」
マリコルヌは荷台の荷物に鼻をぶつけ、赤っ鼻を落とした。気が付けばもう、国境近くの山の前にいた。検問のため、十人ほどの兵士たちがいる。
「僕らが逃げたことを見抜いて、検問してるんだ」
荷台を引っ張っていたギーシュは付け髭を揺らしながら言う。
「ああ…もし捕まったら…」
一番メンバーの中で臆病なマリコルヌに、サイトは安心させようと声をかけた。
「変装してるから大丈夫だ。そう簡単にばれないよ」
「ここは自然体で行きましょ」
キュルケの一言で彼らは互いの顔を見て頷き、ばれないように至って普通の態度をとる。見張りの兵士たちがサイトたちに近づいた。
「旅芸人の一座か。よし、行っていいぞ」
「ありがとうございます」
特に怪しまれることなく、サイトたちは前へ進もうとしたが、ちょっと歩いたところで一人の検問兵がマリコルヌを見て、彼を呼び止めた。
「そこのデブっちょ待て!」
「ひい!…もうだめだ…」
ついにばれてしまったか?冷や汗がたくさん服に染み込ませながら、マリコルヌは絶望した。検問兵が、マリコルヌに近づいてくる。
「どうする?サイト」
「仕方ない。いざとなったら…」
サイトはデルフを手につかむ。もしもの時は戦って気絶させるしかない。しかし、次にとった検問兵の行動は予想とは大きく違っていた。
「落としたぞ」
近づいてきた検問兵はマリコルヌの落とした赤っ鼻を着けてあげた。
「あ…ありがとうございます…」
ばれてなくてよかった…こみ上げる安心感のあまり、マリコルヌは泣きながら礼を言った。こうして結果的に何事もなく彼らは再び前進した。
「ヒヤヒヤさせやがって…」
ギーシュは少々不機嫌気味で荷台を引っ張りながらマリコルヌを睨む。
「だってえ…」
「これで山を越えればガリアだね」
「ああ…だがここからが本番だ。油断はできない」
テファの一言に、シュウヘイは木を引き締めるように言った。ただ、女装なのでいつも通り締まっているとは言い難い…。
「…」
ルイズはさっきから沈黙したままだった。
(もう私はヴァリエールの名を捨てた。お母様やお姉様とも、もう縁を切ったのよ。もう頼れるのは、サイトだけ)
ちらとサイトを見やるルイズ。例え彼が自分を愛さなくてもいい。自分は彼がいたから変われた、そして仲間のためにここまでのことができるようになったのだ。少しずつ、彼のために強くなろう、そう思いながら彼女は仲間と共に目の前に伸びる道を歩いて行った。

その頃のアーハンブラ城、タバサは『イーヴァルディの勇者』を読んでいた。
今読んでいる場面は、ヒロインの両親が主人公イーヴァルディを傷つけ、ヒロインは悪い竜に拐われ、自分への罰だと受け入れているところだった。
―――ルーはぐっと涙をこらえました。イーヴァルディをあれほどまでにひどい目にあわせた両親の娘なのだから。涙することなんて許されない。これは、自分に与えられた罰なのだと…
「罰…私も友達を裏切った…」

再び、オストラント号前。コルベールの指示通りシエスタは見張りの兵士の前に立った。彼女が二人の兵士たちの前に来たのを見計らい、他の三人はすぐ別の場所に移動する。
「お、おとつめご苦労様です」
「女、もう遅いぞ。早く帰れ」
「あの…」
正直言って羞恥心で一杯だが、シエスタは勇気を出してスカートを捲りだした。ガーターベルトまでは見えていたものの、ギリギリで下着は見えてない。
「おお!?」
「もっといいものが…」
シエスタはさらにスカートを捲ろうとし、さすがの兵士たちも彼女の色気と自分の男の欲望に敵わず、グッグッ…と近づいてくる。
「もっといいもの!?」
「た、たまらん…」
しかし、そのいいものを見ることはなかった。隙だらけの兵士たちの後ろから三人が現れ、ギムリとレイナールは木の棒で兵士の頭を殴って気絶させた。
「へへ、ちょろいぜ」
「よし、今のうちに船に乗るんだ」
コルベールたちはオストラント号に乗船した。
ギムリ、レイナールは機関室へ、コルベールとシエスタは操縦室に入った。コルベールは舵を握り、オストラント号を発進させようとする。船体の最前にあるプロペラが回転し始めた。
「く、やはり…」
しかし、今のオストラント号は地面に縫い付けられ、うまく浮上してくれなかった。しかしめげている時間などない。まず飛び立たなくてはサイトたちの囮がつとまらないのだから。
「ミスター!兵隊がもう来ちゃってます!」
「二人とも、もっと石炭を積んでくれ!」
「「はい!」」
機関室とつながっている連絡パイプを通して、コルベールは機関室
のギムリとレイナールに呼びかけた。それに応え、二人もシャベルで石炭をため込み、それを釜の火の中に突っ込む。
「ぐ、飛んでくれ…」
必死に舵に力を込め、船を浮上させようとするコルベール。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
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