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とビターシャルが言おうとしたとき、彼はゴォッ!と何かとてつもない邪悪な気迫を感じた。それも、目の前にいるジョゼフから。
(なんだこいつは…確かにこやつもシャイターンの力を継ぎし者なのは知っているが…)
それだけ、だろうか?もっと深く邪悪なものが、彼の瞳の奥に見えた。
それどころか、ビターシャルの目の前にいるジョゼフの姿が、一瞬にして別人に変わっていたのだ。
「…!?」
「ビターシャル卿、このことは他言無用。君には私の命令を忠実に聞く部下になってもらう」
「なんだと…!?」
「もし、約束を破ればお前の同胞もただでは済まされまい」
「貴様は危険だ!やはり、ここで『大いなる意思』のもと天誅を下す!」
ビターシャルは目を閉じると、彼らの部屋の壁がピシッ!とひび割れ欠片となると、その欠片たちが一つの塊になってジョゼフの方に飛んでいった。
「石の精霊よ、一つに集まり、邪なる者を滅ぼさん!」
しかし、ギン!とジョゼフの目が開かれた瞬間、その石つぶては木っ端微塵に砕け散った。
「バカな…精霊の力がなぜ…」
「残念だが、精霊とやらは私への恐怖で戦意喪失気味のようだな。さあどうする?」
もし、下手に抗えば今度こそ殺られるかもしれない。自分はエルフの政府でも重要な立場にある以上その選択は無理に近い。
「…わかった」
「君は頭が固そうだが、承諾してくれてよかったよ。ではまず手始めに…」

トリスタニアの王宮を訪ねたサイトたちはアンリエッタ、ウェールズのいる王座の間にやって来た。サイトはシュヴァリエのマントを着ている。
「姫様!皇太子様!俺たちをガリアに行かせてください!」
必死に懇願するサイト。仲間を助けに行きたい思いで一杯だった。
しかし、アンリエッタは首を横に振った。
「いけません」
「何で!?」
納得できないサイトに、ウェールズが説明した。
「タバサ殿は聞くところ任務失敗で、しかも犯罪者として捕らえられたそうじゃないか。サイト君も含め、君たちは貴族だ。同時にサイト君は、トリステインで平民でありながらレコンキスタ軍を止めた英雄として名を馳せている。そのような方がガリアにて犯罪者を
救出するなど明らかな敵対行為だと受け止められる。だから…行ってはならない」
政治的にもそうだが、個人的にもアンリエッタたちは彼らを行かせるわけにはいかなかった。彼らはルイズの大切な人たち。
だがサイトはシュヴァリエのマントを脱ぎ、アンリエッタに差し出した。
貴族にとってマントは、自分が貴族である証。それを差し出すことは、貴族の名を捨てることを意味していた。
「サイトさん何を!?」
「これはお返しします。これでトリステインに迷惑はかからない」
「僕とマリコルヌも副隊長の意見に同意します」
「え!?うう…」
サイトに続き、ギーシュも貴族の証であるマントを脱いだ。マリコルヌも一人抜けるわけにもいかず、渋々マントを脱いだ。
そして、ルイズも貴族マントを脱いだ。あのプライドの高いルイズでさえトリステインで誇りあるヴァリエール家の名を捨てることさえ躊躇わない気なのだ。
「君たち…」
「ルイズ、あなたまで…」
「これで私は貴族ではありません。ただのルイズです」
「…そうですか。あなたたちが自分の筋を通すというのなら…私たちは国の柱としての措置を取らねばなりません」
アンリエッタは机の上に置いてあるベルを鳴らした。その音に応え、アニエスが王座の間に入ってきた。
「この者たちを逮捕なさい」
その光景をシルフィードは空を飛びながら見ていた。

「たたた大変なのね!逮捕されたのね!!」
サイトたちが捕まってからあまり時間のたたない頃、シルフィードと入れ替わるようにいなくなっていたイルククゥがUFZ基地に飛び込んできた。
「ギーシュたちが!?」
「逮捕されただと…!?」
「くそ、だから言ったんだ!姫様が許可するはずがないって!!」
モンモランシー、シュウヘイの驚愕に続き、言わんこっちゃないとレイナールが苦虫を噛むような顔を浮かべる。
「でも、どうして逮捕されたってわかったんです?」
テファの質問に、イルククゥは思わず息を妻刺せ、冷や汗をかいた。
どうも痛いところを突かれた様子である。
「て、天国耳なのね!!」
「それを言うなら地獄耳」
シエスタが突っ込む。

結局、サイトたちは牢屋に閉じ込められてしまった。牢屋番の兵がしっかり彼らのいる牢獄の扉の前に仁王立ちしている。部屋の中は簡素で、光があまり差し込まない。ベッドと、外が見える狭い窓ぐらいしかない。
「わりいみんな、俺のせいで」
「何を言い出すんだいサイト!!むしろ感謝したいところさ!」
「は?」
感謝?なぜ流させるように捕まったことを彼は感謝しているのだ?
「城の牢獄に閉じ込められることなんてめったに体験できない…ああ、学院の女の子たちの顔が目見浮かぶよ」
なるほど、彼の自慢話に女子生徒たちが食いついているからのようだ。今回のこともネタに女の子たちと戯れる魂胆なのだ。だが、マリコルヌは悲鳴に近い声を上げている。
「何のんきなこと言ってるんだよおおお!!ああ…こんな場所に閉じ込められてるんじゃブリジッタに会えないじゃないかああああ!!」
ベッドに顔を埋めて泣き出すマリコルヌ。確かに、武器を奪われたこの状況にはギーシュもお手上げの様子でため息をつく。
「はあ、しかし杖さえあれば…」
「俺もデルフ没収されたし…」
ゼロに変身しようにも、サイトの正体を知るアンリエッタの計らいでブレスレッドも没収されている。もしあったとしても、すでに正体を知るルイズはともかく、ギーシュとマリコルヌがここにいる上、牢獄からウルトラマンが飛び出すなんてことが知られたらかえって事態を混乱させるだけだ。
「諦めるわけにはいかないわ。何とか脱出しないと」
ルイズは窓の外を眺めた。さすがは国の柱たちが住む城。脱出するには強固で守りも固いもがわかる。だが、ここから抜け出さなくては彼女を、タバサを助けられないのだ。

「…?」
意識を失っていたタバサは起き上がった。見たところ自分の屋敷ではないようだ。扉離隔のソファに、あのエルフの男が本を読んでいた。自分の杖も彼の手元にある。
「あなたはあの時の…ここはどこ?」
警戒心をこめて尋ねるタバサ。
「ガリアと、我らエルフの国の国境付近にあるアーハンブラ城だ。王族なら名を聞いたことぐらいあるだろう」
「私の使い魔は?」
「あの竜なら逃げた。助けを呼ぼうとか、逃げ出そうとは考えないことだ」
ビターシャルの言うとおり、この城は窓の外に数多くの兵士が張り付いて、とても脱出できる余裕などない。
「母は?」
「会いたいか?」
ビターシャルは部屋の扉を開け、彼女を手招きして誘う。連れて行かせてくれるようだ。
自分より暗く閉ざされた部屋。そこにタバサの母、オルレアン夫人がいた。ベッドの上で横たわる彼女の元へ、タバサは駆け寄った。
母はしっかり自分の娘と思い込んでる人形を抱きしめている。
「暴れるんで眠らせてもらった。危害は加えていない」
「…これから私たちをどうする気?」
「お前には薬を飲んでもらう。お前の母が飲んだものと同じ、心を無くす薬だ」
「あの薬を…!」
心を無くす薬、あれを飲まされたら…彼女は自分の母を見つめる。母と同じ運命をたどるのか…。
「本でも読んで暇を潰すといい。竜に攫われた姫を助けに行くイーヴァルディの物語だ」
ビターシャルの手から差し出された『イーヴァルディの勇者』の本。
自分にとって最も馴染み深い本。それが、自分の読む最後の小説となるのか。どこか儚さと切なさを感じていたが、タバサはそれを顔に出すことはなかった。
「しっかし、スプーンなんか持ってんだなマリコルヌ、それも何本も」
場所を戻して城の牢獄。サイト、ギーシュ、マリコルヌは壁と向き合い、マリコルヌの持っていたスプーンで壁に穴を掘っていた。
「いつでも食べられるように持っているんだ」
そう言って何本も持っているスプーンを見せびらかす。時間はかかるかもしれないが、この手しかない以上やるしかないのだがし、ルイズはなぜか手伝っていなかった。
「なあ〜手伝ってくれよルイズ」
「女の子を働かせる気?手を止めないでやりなさい」
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