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□File15
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彼女は自分が手に持っていた小説、『空飛ぶ大鉄塊・上巻』を彼に手渡した。
「えっと、この本は?」
あんまりこの世界の字は読めないままだが、ためしに本を開いてみた。
「空飛ぶ大鉄塊・上巻。これに出てくるゴーレムが実際に現れた」
「え!?」
これに出てくるゴーレムが実際に現れた?サイトはページを捲りにめくりまくって挿絵を探してみる。最初の挿絵を見て彼は驚愕した。基地のモニターで見た鉄の塊と、今見ている挿絵に描かれている筒状の鉄の塊の姿が、全く同じではないか。
しかもそれだけではない。その鉄の塊、待機状態の大鉄塊の中身の構図を現す電子板のイラスト、これは高度な科学力を持つ星人にしか設計できないものだ。
(なんだこの小説…まだ機械が未発達なこの星では、こんな精密な機械の設計さえできないはずなのに…)
まさか、この小説の作者は…
「そろそろ行かないと…」
タバサはソファから立ち上がって、杖を手にとる。
「お、おい!行くってどこにだよ!」
「大鉄塊を探す」
彼女はそう言って玄関からシルフィードに乗って空へ飛んで行った。
「タバサ…」
この小説に、何か特別な意味でもあるのだろうか?ここで解析はできないだろう。タバサが心配だがここは一旦トリステインに戻ってこの小説を調べてもらうことにした。

一方、タバサは大鉄塊を探していた。シルフィードの背中から地上を眺め、どこかに大鉄塊がいないか探してみる。しかし、どこからか炎が自分の方へ飛び出し、それに反応したタバサは身をかがめ、シルフィードは主を守ろうとヒュ!を素早く降下してその炎を回避
した。
何者かが自分に火系統の魔法で攻撃してきたようだが、一体何者なのだ?顔を上げて敵を確認してみると、身に覚えのない竜騎士の三人組だった。あの鎧からして、自分が所属する北花壇騎士とは違う部隊の兵士のようだ。これも叔父であるジョゼフの差し金だろうか
?しかしタバサは彼らの後頭部に何かあるのを発見した。何か、張り付いてるのか?
彼女の予想は当たっていた。彼らの後頭部に、40サント(地球単位でセンチ)ほどの奇妙な蛾に酷似した生命体が張り付いていたのだ。こいつらがこの騎士たちを操ってるのか?
この蛾のような生命体、実は異星人だったのだ。
『宇宙昆虫ガロ星人』。
ガロ星人に操られた竜騎士の一人がこちらに風の刃『エア・カッター』を仕掛けてきた。その攻撃もシルフィードの身のこなしで避けることができたものの、隙をついてもう一人の騎士が自分の眼前に迫ってきた。しかも『エア・ニードル』の準備が整っている。何と
か避けて、自分も魔法で反撃に転じなくては。彼女は呪文を唱え、凄まじい風の衝撃を発生させる。
「ウィンド・ブレイク!」
その突風は、三人の竜騎士を、彼らの乗る竜から引きはがし、地上に落とした。身を守るためとはいえ、後味の悪さを思い知らされた。が、安心するのはまだ早かった。背後から水魔法によって作られた水球がタバサを襲う。まだもう一人ガロ星人に操られた刺客がいたのだ。彼女はいち早く反応し、身をそらしたが、それが仇となった。シルフィードの背中から自分の身が離れていく。
(しまっ…!!!)
「お姉さま!!」
自分から離れていく主を救おうと、急降下を図るフィードだったが、さっきの竜騎士が炎の魔法でこちらに攻撃を仕掛けているせいで時すでに遅し、タバサは地上に転落してしまった。
「ああああああああああ…!!!!!」

「タバサから、これを預かってきた」
基地に帰還してタバサから託された「空飛ぶ大鉄塊・上巻」を見せたサイト。仲間たちはその小説を手に取り、読んでみた。
「これ、絶版になった小説じゃないか。タバサはこんな意味不明なものを読んでいたのか?」
この小説は下巻が出ないまま絶版になったというから、やはり世間的には酷評らしい。
その挿し絵を見たシュウヘイは、驚愕の表情を露わにした。
「これは…確かTLTで開発中とされていた重力遮断システムの設計図に酷似している!」
「なんだって!?本当か?」
「ああ、俺も元は防衛軍の隊員だ。こういったものに触れることが多いが、なぜこの星の小説にこんなものが…機械がほとんど出回ってないこの世界じゃありえないぞ」
シュウヘイとサイトの地球人どうしの話は、周りにいるギーシュたちは着いていけず、頭上に「?」マークを出すばかりだ。
「じゃあまさか、この小説を書いた奴って…」
サイトの中である予想が浮かび上がった。この星でありえないのなら、やはりどう考えても…
「タバサも心配だ。もっかい行ってくる!!」

「ん…」
背中がちょっと痛い。なにか堅いものの上で眠っていたようだ。いや、眠っていたなんてありえない!先ほどのことを思いだしてタバサは起き上がった。自分は襲ってきた竜騎士たちによってシルフィードから落とされて地上に…。どうして助かったのだ?しかもここ
は自分の屋敷の自室ではないか。誰が自分を助けてくれたんだろうか?シルフィードは外で寝ている。
ふと、そこで自分の部屋に入っていた人物が椅子に座っていることに気が付いた。
「ペルスラン?」
「おお!お嬢様、お気づきになられましたか!」
「もしかして、あなたが…」
「ええ、間に合って安心しましたよ」
そういうペルスランだったが、おかしい。あの高さからレビテーションの魔法を対象者にかければ助かるかもしれないが、ペルスランは平民のはずだ。
いや、待てよ…
その時の彼女の脳裏にある光景が浮かんだ。あの夜、トイレから自室に戻るとき、父の部屋の奥から見えた「人」ではない影。その時の彼女に気付いたのか、影の主はタバサに近づいて、扉を開いた。
開いてきたのは、その部屋の所有者である自分の父ではなかった。ペルスランだった。
「まさか、あなたは…」
墓にも思い出したことがある。彼女は、幼い日に本を読み聞かせてくれたのが父ではなくこのペルスランだったことを思い出した。父はなかなか政務で戻らないとき、彼に頼んで枕もとでイーヴァルディの騎士や空飛ぶ大鉄塊を聞いていた。
「そうだ、あなただった…私に枕もとで本を読んでくれていたのも、父様じゃなかった。ペルスラン、あなただった。そしてあの夜、私が見た人間じゃない影の正体も…」
「…お気づきになられたのですか」
いつかは自分の正体がばれることを、ペルスランは予測こそはしていたようだ。
「お嬢様のご察しどおりです。私はこの星の住人ではございません。『キュルウ星』と呼ばれる星の者なのです」
「キュルウ星?」
「ええ、今から二十年前のことです…」
ペルスランの正体は、20数年前にこの星に漂着した『帰化宇宙人キュルウ星人』だった。
当時、まだ若かったタバサの父シャルルがこの世界に流れ着き、故郷に帰れなかった彼を保護したのだ。実は彼こそが「空飛ぶ大鉄塊・上巻」の作者で、故郷へ帰るため宇宙船の建造技術を持つ者を探すために小説として出版したものだった。
だが、結局「空飛ぶ大鉄塊・上巻」は子供だましの空想小説としか受け止められず、下巻は出版されないまま絶版となった。逆にペルスランは侵略をもくろむガロ星人に目をつけられてしまう。
「ガロ星人は、現ガリア王ともつながりを持っておりました。お嬢様もご覧になった大鉄塊は、ガロ星人が上巻の内容をもとに作り上げ、再現したものです。そのせいで、私を守るために保護してくだされたあなたの父上は余計に命を狙われ、最終的に殺されました」
タバサは衝撃を受けた。父が殺されたのは、権力争いだけが原因ではなかったのだ。大鉄塊の秘密を守るため、自分の危険を顧みることなく自分の父は殺されていた。
恩人であるあの方の死は、私の責任でもあるのです。そう悲痛に語るペルスラン。大鉄塊を書いたことを後悔しているのだ。
「ガロ星人とガリア王は、おそらく大鉄塊のコントロール方法を求めています」
「使い方がわからないの?」
いや、あのシェフィールドならたとえコントロール方法がわからなくても、使い方がわかるのではないか?現にあの女は、たくさんのマジックアイテムを使いこなしている。なにせ奴もサイトたちと同様…
「いえ、たとえシェフィールドの能力をもってしても、使い方を理解しなくては、そして条件を満たさなくてはコントロールできないのです。ですから、連中は探してるのですよ。私か、大鉄塊の下巻の原稿を」
ガロ星人は、コントロール方法が載っているはずの下巻を探しており、タバサが狙われたのもそのためだった。
今、ペルスランは手に数枚の紙の束を手に持っている。
「これは大鉄塊の下巻の原稿です。コントロール方法が書かれております。これは作者である私には処分できなかった。ですから、お手数かけることになりますがお嬢様の手で、消してください。そして、覚えていてください。
いかなる世界でも常に、科学も魔法も、正義のために使われるべきなのです」
出版されることのなかった下巻の原稿をタバサに託し、ペルスランは彼女の部屋を後にした。
「ペルスラン!」
それを追うタバサだったが、ペルスランの姿は彼女が廊下に出た時は完全に姿を消していた。

そのペルスランは、ガロ星人に操られた竜騎士に囲まれていた。
「大鉄塊のコントロール方法を吐くのだ」
「貴様らにくれてやるものなどない!」
しかし、いくらペルスランも老人。この数で、しかも相手がメイジでは分が悪い。と、その時だった。
「は!」
「ヌオ!?」
タバサの無事と大鉄塊の捜索に来たサイトが彼の前に現れ、彼を襲ってきた竜騎士の一人を蹴とばした。
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