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□タバサとグレイの冒険/FIle2
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「フレイムボール!」
「ウィンドブレイク」
二人の魔法がその翼人の矢をなんとかかき消した。しかし、ハルケギニアの貴族たちの魔法とは違い、翼人たちの先住魔法−−正しくは『精霊の力』−−はメイジの使う魔法とは違って精神力を使わない。だからほぼ無制限に使うことができるのだ。
「たかが一度消したところで!」
翼人たちはタバサたちに反撃しようとした。
「我に仇なす敵を「待ってください!!」え!?」
そこに、翼人の少女が人間と翼人の間を割り入るように現れた。
「アイーシャ!?」
ヨシアはそのアイーシャと呼んだ少女を見て驚きの声を上げる。どうも知り合いのようだ。
「戦ってはなりません!武器を収めなさい!」
アイーシャは二人の翼人に言うと、二人の翼人は逆らえない様子で弓をしまった。
「アイーシャ」
「ヨシア…」
二人は互いに歩み寄った。不思議と、熱があるように見えたのか、恋愛経験豊富なキュルケはこの二人の関係にすぐにピンときた。
「なるほどね。彼女、あんたのこれ?」
キュルケはヨシアに小指を立てた。ヨシアとアイーシャは何も反論できず顔を赤くした。
そしてヨシアはようやく口を開いた。「お願いです!翼人たちに危害を与えないでください!彼らは何も悪くないのです!」
「私からもお願いします!!人間と翼人が争うなんて私には耐えられません!!」
二人はタバサとキュルケに頭を下げて懇願する。
だがすぐに「はい」と答えたら場が余計に混乱する。他にも人はいるのだ。タバサはあることを尋ねてみた。
「まず聞きたいことがある」
「なっ、なんでしょう?」
「翼人たちはあのような殺し方はしないと言ってたけど…本当?」
アイーシャは石化した翼人を見て首を横に振った。
「あれは、この地に眠っている岩の竜が原因なのです」
「「「「岩の竜?」」」」
「あれを見てください」
アイーシャは遠くにそびえる岩山を指差した。
「あの岩山には、遥か昔から『ガクマ』という怪物が眠っているのです。
ガクマはその口から吐く光でいかなる物体を石に変えて補食することで生きるんです。でも、岩山でしか生息しないはずのガクマが下山してきた…」
「ガクマが!?」
翼人の一人は驚きの声を上げた。
「大変なのね!こうなったら翼人だの人間だのなんて言ってる場合じゃないのね!」
「確かにそうね。タバサの任務はこの村の人と翼人の争いの終結。犠牲はなるべく無くすことが鉄則よね」
「ちょっと貴族様!あの忌々しい翼人どもを討伐しに来たのではないのですか!?」
納得できない様子でサムはキュルケとタバサに問い詰めた。
「さっきキュルケが言ったように私たちはこの辺りの争いを止めに来た。翼人の討伐は作戦行動に含まれない。それにもし戦えば、双方に多大な犠牲が出る」
「あんな化け物たちと仲良くできませんよ!こうして近くにいるだけで…」
とサムは続けようとしたが、ここでキュルケが杖をサムに突きつけた。
「そんなちっぽけなことにこだわって貴族に詰め寄る平民を火炙りにしてもいいのよ?」
サァーッとサムから血の気が引いた。貴族に逆らえば、とてつもなく恐ろしい目に合うことを彼はよく理解していた。
「きゅいきゅい!さっきから聞いていれば不機嫌極まりないのね!
父様と母様はよく言ってたのね!翼人の人たちは争いを好まない、平和主義の種族って!」
「そうね。この二人を見ていたら、そう見てとれないわ」
キュルケはちょっと意地悪そうな笑みでヨシアとアイーシャを横目で見た。その二人は、どう受け答えしたらいいかわからず、顔を赤く染める。
「そう言えば、あんたたちはいつどんな感じで知り合ったの?」
「それは以前、僕がキノコ狩りに山を上っていた時に足を怪我して…その時にアイーシャがやって来て、魔法で僕の怪我を治してくれたんです。
あれが先住魔法って言うんだよね。初めて見た時は驚いた」
「先住魔法って言い方はあまり好まないの。私たちは精霊の力と呼んでるわ。この世界の森や石、または建物には精霊が宿ってる。私たちはその力を借りてるだけ」
「このようにアイーシャが僕の知らないことをよく教えてくれるんです。それでお互いのことをもっと知りたくて、一目を盗んで会うようになって……」
そこまでいくとヨシアは赤面して言い辛そうに黙り込んだ。
「素敵すぎるじゃないの!あんたたち、もうこうなったら結婚して百歳になるまで一緒に生きてから逝きなさい!ここで引き裂かれて終わりなんてバッドエンドは絶対に認めないわよ!」
翼人と人間、元々対立してた普通ならこんな恋愛はあり得ない。だがキュルケにとって種族間の争いなんて些細なもの。他人の恋人を奪うことを面白がる彼女は、本気で愛し合ってるカップルにまで手を出すことは絶対に許されないことを知っている。
「きゅい!シルフィから見ても素敵な恋なのね!」
「でしょ?こんなこと滅多……に……」
ここでようやくキュルケは気づいた。きゅいきゅいなんて誰が言ってるの?
あたしはさっきまで誰と話していたっけ?サム?それともヨシア?いや、あの声は女の子の声だ。ならタバサ?いや、あんな話し方なタバサは絶対想像できないしあり得ない。
ならアイーシャか?そのアイーシャもこちらと視線が合ったとき、違うと首を横に振ってる。
まさか…
自分の横に停まった竜と視線が合うと、その竜は冷や汗をかいていた。
「喋る竜なんかいないのね…」
遂にはボロを出してその竜、シルフィードは言ってしまう。
「バカ…」
タバサに限っては呆れていた。
「ドラゴンが……喋ってるうううううううううううううううううううう!!!?」
タバサを除く一同の絶叫が森中に響いた。ヨシアとサムは兄弟仲良く腰を抜かし、キュルケも驚きのあまり顎が外れかけていた。
「授業で習ってたけど、シルフィードって韻竜だったの!?」
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