GANTZ/ULTRASEVEN.AX(完結)

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「俺が行く」
「お前じゃ、無理だって…」
激痛に耐えながら玄野が声を上げる。
「その体じゃ無理だ!」
「大丈夫だって…」
かすれた声で玄野は返した。無理に笑おうとしたせいか、かえって泣きそうな表情になる。
「昔から変わんないよね。だからカッコよかったよ」
その加藤の言葉を玄野は理解しきれなかった。
「計ちゃんみたいになりたかった。でも…」
加藤は玄野を見て笑みを見せた。顔を上げ、物言いたげに口を開こうとするのを制して加藤は続けた。
「計ちゃんの言ってた通りだ。自分だけ戻りたかったのかも知れない。偽善者なんだろうな…」
加藤は岸本に顔を向けた。
「計ちゃんを頼む」
そう言い残し、加藤はその場から飛び出して行った。
「加藤君!」
「加藤っ!…」
玄野は体を起こそうとしたが、動けなかった。焼き付くような痛みに耐えるのがやっとのことだった。

「ぐぅ…が…」
ジンは貫かれた右手を握って膝をついていた。千手観音はいつの間にかいなくなっている。加藤たちを探しに行ったのだろうか?
「大丈夫かジン!」
「な…なんとか…」
その加藤はジンを発見してすぐ、彼を手近な柱に隠し、自分もそこに隠れて敵に備えた。
だが、千手観音は彼らの真後ろにいたのだ。
「!」
加藤はとっさに反応して身をかわした。
直後、電光のごときビームが放たれた。一瞬前まで加藤が立っていた場所を、十数本の刃が通り抜け、壁の一部が粉々に砕け散った。
なんとか最初の一撃をかわした加藤は近くの仏像の展示台に身を預け、反動をつけて横に逃れる。
そこを追いかけてきた千手観音の刃が、今度はその仏像をバラバラに切り裂いた。
「くっ!」
加藤はXガンを掲げ、まっすぐ狙いをつけた。間合いは約二メートル。今なら撃てる。
引き金に力がこもった。
「仲間の敵…お前たちを皆殺しにしてやる」
仲間の敵、その言葉は加藤から引き金にこもる力を抜き取った。
気がつくと、千手観音は間合いを一気に詰めていた。Xガンで撃つだけの間合いもない。
その刹那、千手観音は、一陣の疾風と共に加藤の前から消えた。わずかに遅れて、その背後にあった仏像が吹き飛ぶ。
「逃げて!加藤君!」
Xガンを構えて立っていたのは岸本だった。加藤に迫る星人を狙い撃とうとしたのだ。だが、千手観音の速度は想像を越えていた。一瞬の内に岸本の脇までに移動したかと思うと、次の瞬間、岸本の体を横殴りに吹き飛ばしていた。
「っ!」
数メートル飛ばされ、岸本はそこにあった仏像に激突、どさりと床に崩れた。それでも必死で起き上がる岸本は、千手観音に向けてXガンを構え直そうとする。だが、その銃身は、いましがたの攻撃で、すっぱりと途中から切り落とされていた。
「ハアッ…ハアッ…ハアッ…」
Xガンを失った加藤は、腰に着けてあった黒い小ぶりの棒のような
ものを手にとった。幅広になっている一端を前に持ち、振り下ろす
とその中から黒い刃が滑り出た。
ガンツ部屋にあった武器「ガンツソード」。
「ハッ!」
気合い一閃、加藤は床を蹴って千手観音へと迫った。スーツのパワ
ーは、恐るべきスピードを加藤に与えたが、千手観音の反応速度は、その一撃をやすやすとかわし、さらに一撃返して加藤をぶっ飛ばす。
「がふっ…!」
加藤が壁に叩きつけられるところを受け止めたのは、岸本だった。
彼女は加藤の体を横たえ、刃を振りかざし、凄まじい速度で迫る千手観音の前へと体を投げ出していた。
「うっ!」
岸本の体を、いくつもの刃が貫いていた。加藤もまた、少なからず傷を身に受けていたが、必死の形相で立ち上がり、刃を引き抜かれてふらふらと倒れかかる岸本の体を受け止めた。
倒れていたジンは、落ちていたXガンを取って千手観音を撃とうとしたが、右手の激痛のせいで力が入らない。ただ敵を睨むことしかできなかった。
「くそ…」
加藤は刀を捨てるように脇に置いて、千手観音に背を向けるように
しながら、岸本の体をかき抱いた。

玄野は歯を食いしばり、必死で物陰から這い出ようとしていた。スーツの力なのか、それども単に痛覚が麻痺したのか、さっきよりは動ける。だが、あの三人を助けるために手を差し伸べることはできなかった。
なんてことだ。玄野は歯噛みし、やっと気づいた。
スーツの力を借りていい気になり、ヒーロー気分に浸っていたがこのザマだ。小学校のあの時から、いや、元から玄野はヒーローなどではなかった。ただ加藤がそう呼んだだけ、ただそれだけだった。
ジンの言った通り、スーツの力に心を奪われていた。
「うう…くそ…」
あの頃の自分があったのは、加藤がいてくればこそだった。
その加藤の気持ちに、自分はどんな態度で応えたのか。
今が、その時だと言うのに!
戦えない自分が憎い。動かない体が呪わしい。
「ちくしょう…動け…」
抱き合う加藤と岸本、右手の痛みよりもその二人の様子を苦悶な顔をしながら目を背けるジンが彼方から見えた。
息をしてるのが不思議なほどだった。
虚ろな目で岸本は加藤を見つめ、微笑んだ。
「加藤君は、歩君のとこに…帰らなきゃ…ね」
加藤は声もなく、ただ見下ろすことしかできなかった。小刻みに震える体で、岸本は加藤の頬に手を伸ばし、顔を近づけ、口づけを――。不意に彼女の体は重くなり、微笑したまま動かなくなった。
ギリリと奥歯が鳴った。
怒りに身を震わせた加藤の手に、再び刀が握られていた。
「くあっ!」
足元はふらついていた。ちょっと動くだけで体はきしむように痛む。
だが、加藤は前へと進み、渾身の力と怒りを込めて、千手観音に斬りかかった。
「加藤…さん!」
「か…とう!」
加藤の一撃は容易く受け止められ、彼は振り下ろされた千手観音の刃に全身を貫かれた。
走馬灯のように、加藤の脳裏を去来したのは、最後に見た弟の寝顔だった。
死んだらいけなかったのに、死ねないのに…
加藤は空に浮いたような感覚を覚えながら倒れた。
「か…と…」
目の前で倒れた加藤に、玄野は必死に体を寄せた。
「復讐だ…お前たちも、お前たちの同胞も…皆殺しだ!」
俺も、死ぬのかな…
玄野は思った。
いや、死ぬのは構わない。だがこのまま死ぬことはできない。
立たねばならない。まずはそれからだ。
玄野は加藤が使っていた刀を拾い、激痛を無視して床を蹴った。その玄野の感情に応えるように、スーツはリングに光を灯し、傷口を閉じるほど筋肉を収縮させる。
「でやあああああ!!」
玄野自身も信じられない勢いだった。
ジンもただ倒れてるわけにはいかず、床に落ちたアックスアイを残された左手で必死に拾おうとした。
玄野の一閃は、結局千手観音には届かなかった。胸の前で合掌の形を作っていた二本の腕が、玄野の刀を白刃取りしたのだ。
「ぎ、ぐぐ…」
刀はびくともしない。スーツの力を持ってしても、全く。
「止めだ…!」
千手観音が岸本や加藤の時のように、刃を振り下ろそうとした時だった。
〈アックスラッガー!〉
「デヤアアアア!!」
銀色に輝くブーメランが、玄野の刀を受け止めていた千手観音の両腕を切り落とした。
ジンは玄野が攻撃される寸でのところでセブンアックスに変身できたのだ。
受け止めた力をなくした玄野の刀は、そのまま千手観音の体を切り裂く。
「ギョオオオ!!!!」
千手観音の傷は深かった。さっきまでの千手観音からは想像もつかない悲鳴が響く。
今なら勝てる。そう思った。
だが、千手観音はゆっくりと一本の腕を前に出した。その手のひらには、胡座した小さな仏像が一つのっていた。
「「?」」
二人が眉を潜めて見守る目の前で、千手観音はその仏像をひらりと
宙に投げた。かたん、ことんと静かな音を立て、仏像は玄野の脇を
通りすぎて、背後の階段を転がり落ちていった。
仏像は玄関まで転がり、そこで止まった。
最初は目の錯覚だと思った。そう信じたかった。が、仏像がぶるぶ
る震えだし、破片を撒き散らしながら大きくなっていくようにみえ
たのだ。だが、錯覚などではなかった。
仏像は見る間に大きさを増し、頭の高さが息を呑む玄野たちの場所
にまで達していた。振り替えると、千手観音は光になって消滅した。
二人は階段を駆け上がり、セブンアックスは大仏にアックスラッガ
ーを投げようと、玄野はとっさにショットガンを構え、頭上から狙
撃しようとした。
だが、仏像の大きくなる速度は二人の想像を凌駕していた。
「あ!」
床を突き破り、大仏の指先が玄野の体を突き上げた。ショットガン
は手を離れ、下へ落下していく。
遂に、仏像は大仏となって天井を突き破った。
玄野は大仏の指の中で、目も眩む高さに差し上げられていた。
「!」
蚊を叩き潰すように、大仏は両手のひらをパンと合わせようとした。
その瞬時、巨大化したセブンアックスがその手を掴んで止め、玄野
は辛うじて脱出に成功した。
玄野は屋根の上へと飛び降り、着地する。
セブンアックスは必死に攻撃しようとしたが、右手の傷が癒えてない。大仏に圧倒されていた。
「ウウウウゥ!!」
「グア…ゥ…」
大仏はセブンアックスを標的に止め、首を締め上げる。必死に腕に
力を込めようとしたが、右手が使えない状況で大仏の怪力から逃れ
ることは不可能だった。
首を締める力がどんどん強くなる。
ピコン、ピコン…
セブンアックスのビームランプも点滅し、彼の活動時間が限界に近
づきつつあることを知らせている。
また仲間を一人失うのか?救いたくても、玄野の手元には、ジンを救う武器はなかった。
万事休すか…
「計ちゃああああああん!!!!!!!!」
「!」
崩れ落ちた博物館の奥から、加藤の声が聞こえてきた。
「加藤!」
「うあああああああ!!」
加藤はXガンを拾い上げ、凄まじい気合いと共に頭上に放りあげる。
宙を舞うXガンに向かって玄野は屋根を蹴った。
手に取り、玄野はセブンアックスに気をとられている大仏の腕を狙い撃った。
バン!
大仏の腕は弾けとんだ。
「今だ!やれ、ジイイイイイイイン!!!!」
解放されたセブンアックスは腕を失って苦しむ大仏に、止めの必殺光線を放った。
〈フレアショット!〉
「ダアアアアッ!!」
「ウガアアア!!!!!!!!」
大仏は光線をモロに喰らい、大爆発を起こして砕け散った。
「グ…」
セブンアックスは膝を着いて変身を解き、元のジンに戻った。
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