ウルトラマンゼロ 絆と零の使い魔

□2章 小悪魔と蒼紅の月
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「記憶を消そうとは、考えないのか?」
シュウは、ティファニアが自分を誘拐した盗賊たちに忘却の魔法を使った時のことを思い出した。かつて自分の世界でMPがウルトラマンとビーストにまつわる記憶を消去したように、そんなに嫌なら自分のことを忘れてもらった方がいいのでは?なんてことを考えていた。それを言われてマチルダは眉を潜めた。
「…それはテファの意思によるさ。けど、忘れたくても忘れられるタイプじゃないよ。あの子は寂しがり屋で箱入りだ。少しでも、覚えておきたいことは絶対に忘れようとしない。あの子が屋敷暮らしだった頃、一緒に遊んでくれた…あいつのことを今でも忘れることができなかったんだから。あんたのことも、この先ずっと覚えていくに違いないね」
あいつとは、ヤマワラワのことだ。誤解し合った結果、一度戦う羽目になってしまったのだが、ティファニアの思いが戦いを終わらせた。ヤマワラワは自ら姿を消してしまったのだが、どちらかが倒れるなんて事態にならなかったのは幸いだった。
彼女が幼い頃に体験した、父と母の死・友人との離別は辛い過去だ。それを、自らの魔法で消し去ることだってできたはずなのにそれをしなかった。ティファニアには見かけによらず芯が強い部分があるということなのだろうか。それとも、単に思い出にすがっているから忘れたくないだけなのだろうか。
どちらにせよ…俺の場合はどうなのだろうか。
「…なら、せめて何かテファを安心してあげられることを言ってあげな」
安心してあげられること?シュウは眉を潜める。口約束なり指切りなりしておけと言いたいのだろうか。
「そういうのは、苦手だ。どんなに強く未来を信じても、現実がそれを無情に壊すことがある。俺がそうだったから」
「シュウ…あんた…」
ほんの少し、自分の本音を明かしたシュウにマチルダは目を丸くした。だが、その本音が悲観的なものだったことに彼女はため息を漏らす。戦うことばかりに身を投じ、自分を心配する周囲の気持ちなんてまるで考えないようにしているように見受けられる。しかも自分の未来に何が起こるのかわからないからって口約束じみたものを否定している。こんな悲観的な奴がウルトラマンで大丈夫なのか?
「全く、あんたの親の顔を見てみたいよ。一体どんな育ち方をしてきたんだか。もっとあんたが小さいときに会うことができたら、親からあんたをかっさらって教育し直したげたいね」
「これも前に言ったと思うが、俺に親はいない」
確かに前にも言っていた。テファと同様親がもうこの世にいないからなのか?…いや、マチルダの脳裏にもう一つの仮説が浮かぶ。
「…それって、あんたがウルトラマンだから?」
「違う。ウルトラマンと俺は体を共有している。俺は同化しているウルトラマンの力を引き出し利用しているだけなんだ」
違った。どうやらシュウ自身がウルトラマンそのものというわけではないようだ。つまり、自分の中に別の誰かがいる…二重人格に近くて非なるものということだろうか、とマチルダは予想した。
しかし、彼の中のウルトラマンを恨みたくなった。テファの場合もそうだった。なぜシュウが身を削ってまでこんな腐った貴族ばかりが支配する世界のために戦わなくてはならない。なぜテファのような純粋で優しい娘が、エルフの血を引いているからって迫害されなければならない。始祖ブリミルもウルトラマンも、残酷な現実を突きつける。
「あ〜やめたやめた。これ以上今の話題のことで考えると鬱になっちまうよ。まるで自分は不幸な人間ですって主張してるみたいで腹も立つし」
あまり明るい話と思えない会話に業を煮やしたマチルダは無理やりながらも会話を中止させ、立ち上がって扉の方に向かった。
「仕事のことだけど、さっさと済ませとくんだよ。後、これからはテファのことも安心させること。あんたはあの子の使い魔でもあるんだからね、あの子の身を守るだけで満足しないことだよ」
言い残し部屋を出て行った時のマチルダは、少しだけ視線を鋭くしていた。マチルダにもシュウをこの世界に呼び出した責任はある。だが、シュウも使い魔として村に、この世界に留まることを受け入れた以上、ティファニアのことを考えて行動する責務がある。そのことから目を背けるな、という警告を現していた。
ともあれ、シュウからの提案には乗ってくれたようだ。
「…厳しいな。だが…俺に拒否権はない…」
懐からエボルトラスターを手に取り、まだ輝いていない宝珠を見つめた。
ティファニアを安心させる。それはシュウにとって不可能に近いことに思えた。いくつもの『責任』が彼から自由を奪う。それはこの世界に来る以前からまとわりついている。この光を手にした時よりも、ナイトレイダーになる以前よりもずっと前から背負うことになった重すぎる『責任』が彼の心を束縛する。
その責任を感じると、彼は自分がやはり村から出ていくべきじゃないか、とも考える。しかし使い魔であることを受け入れたから、ティファニアやマチルダがそれを良しとしてくれない。
(遊園地の時も、ナイトレイダーになったときも、この村に居ついても、俺は相変わらずだな。甘えているんだろうな…暖かな空気とやらに)
いつぞや、憐が言っていた。自分の運命を忘れていたい、と。あいつはかつて、病を患っていた。17歳でアポトーシスが全身で起こり死ぬはずだった。しかも特効薬は開発中止を宣告され、彼は見殺しにされたも同然だった。今は秘密裏に特効薬が開発されていたため助かったのだが、当時の憐もそうだったのだろうか。暖かな場所で誰かのために生きていれば、自分の過去も未来も忘れていられるのだろうか。
でも、忘れてはいけない。ナイトレイダーになった理由、ウルトラマンの力を手にした理由を…。

――――誰かの命を摘み取った大罪を。

マチルダは部屋を出てため息を漏らした。
あの青年に対して、彼女はある程度考えていることが読めてきた。詳しいことはまだわからないが、後ろめたいことをずっと引き摺り続けている。それに気づいたとき、見た目によらず女々しい奴だと思った。でも、そうだからって自分にどうこうできることではない。他ならぬ本人の意思だから。それに、女々しく見えるからこそこうも考える。
(…責任感は、あるみたいだね)
ちゃんとテファを安心してやれ、とは言っておいた。あとは本人次第だが、意思を持って言いつけをキチンと守るなら大丈夫かもしれない。
それに今回の相談で、自分がかつて起こした破壊の杖事件で対立したことのあるサイトたちのことを思い出す。村に突如来訪してきたのは驚いたが、テファや子供たちと思いのほか楽に打ち解けることができた少年少女たち。そこにはあの色情魔じみてるように見えていたツェルプストーの令嬢が口添えしてくれたおかげもあった。ああ見えて周囲への気配りや仲介が得意なのだろう。性格が正反対なのに、無口な青い髪の少女とも仲良くできるわけだ。エマとサマンサが変な知識を植え付けられていないかが心配だが。
ともあれ、一度は対立し合った仲の連中だが、エルフだの敵などというへだたりをなくせばシュウやテファと釣り合えるかもしれないし、ためにもなるかもしれない。
もうすぐ、自分が盗賊をやる必要がなくなるかもしれない。親の気持ちとしてはうれしいが、寂しくもあった。


一方、シエスタの家。
「さあて…白状してもらいましょうかサイト。一体この子に何をしたのかしら!?」
「そうですよサイトさん、人が心配しているのをよそにどこで油を売っていると思ったら…どこぞの娘と…!」
「ちょ…なんで怒ってんだよ二人とも!さっき見つけてきたばかりの女の子に俺が一体何をしたってんだよ!」
仲間と合流するや否や、サイトはルイズとシエスタ正座させられていた。なぜだろう?サイトはいくら頭にこんなことをさせられているのか理解できず、ご主人様と仲良しなメイドさんの二人のプレッシャーに充てられるがままにされ続けていた。
「やれやれ、サイトを見つけて大団円かと思ったらこれか」
「……」
「ダーリンったら、あたしという女がいながらいったいどこで女の子を拾ったのかしら。ちょっと妬けちゃうわね」
ギーシュ・タバサ・キュルケは完全にギャラリーサイドに立って傍観し、コルベールはホーク3号を竜騎士団の手を借りて学院まで運ぶための許可をとるためこの場にいない。
ホーク3号はあの後、王立研究所『アカデミー』から格好の的にされ、下手をしたら研究目的のために解体され二度と使い物にならなくなってしまうことになりかねないという危機に立つことを危惧された。ただでさえ怪獣がいつどこで現れるかもしれないこのとき、それは状況として厳しいものだった。だが、コルベールは何とか話を掛け合ってみせると頼もしい言葉をかけてくれた。それにあの戦いでは、ハルケギニアにはない技術で強化されたレキシントン号をはじめとした複数の艦隊も、ゼロが脱ぎ捨てたテクターギアの残骸も王室の監視の下で回収され、対アルビオン・対怪獣兵器として運用・研究がすぐに決定された。それらさえあれば、ホーク3号から興味がそれるかもしれないらしい。ともあれ、コルベールの説得がうまくいくことを願った。
そして…早くこの二人から解放されたいと、切に願った。
ルイズはサイトの傍らで寝かされている少女…ハルナを指さして怒鳴る。
見つけた後、ハルナが怪我をしていたということもあり、シエスタの部屋のベッドに寝かせ、タバサが水魔法で治療してくれた。どうも胸元に切り傷ができているが、止血し傷を塞ぐ分は問題ないそうだ。とはいっても、タバサ曰く回復や治療はモンモランシーの方が専門なので頼るならそちらの方をお勧めした。
しかし、サイトが妙にその少女に肩入れしていることからルイズがあらぬ疑いをかけたのだ。シエスタもお怒りの様子で、あの戦いで姿を消している隙をついて、どこぞの誰かも知らない女に、言葉では表しきれないほどの恥辱を味あわせようとしているのではと思い込んでいた。
「初めて見る顔の娘にしては随分とご執心だし、大きい胸はサイトさんのこの好みだって、もうわかりきってますし…」
「そのくせこのメイドと同じ黒髪!何もしてないなんて、あんたにかぎって信用できないわ!さあ、怒らないからはっきりと正直に答えなさい!!」
「明らかに怒ってんじゃないか二人とも!本当に何もしてないってば!」
必死に二人に弁明するサイト。下手をしたら無実の罪を着せられたまま死刑勧告を受けることになってしまう。と、デルフが顔を出してサイトを弁護してくれた。
「貴族の娘っ子。そう目くじら立てんなよ。相棒は神に誓って、この娘っ子には手を出しちゃいねえ。俺が保証してやる」
「…本当なんですか?」
シエスタがジトッとサイトとデルフを睨む。
「だから本当なんだってば!」
だが、事情を知らないルイズとシエスタからすれば、サイトが適当な言い訳をつけて女に手を出そうと考えていると思わせてしまった。
『大変だな。サイト。ま、俺にゃ関係ねーけど』
『このやろ…他人事だと思って…』
たしなめてるようで、結局静観を決めるゼロ。自分の中にいる宇宙人を恨めし気に想うサイトだった。
「ルイズ、メイド。そこまでにしておきなさいよ。サイトにだけ弁明の余地も与えないなんてひどすぎるわ。それに、眠っている人間のそばで騒ぐもんじゃないわ。
まったく、相変わらず心の狭い子ね」
あまりにもサイトが不憫に見えたのか、それを見かねてキュルケが仲介役として会話に加わってきた。心が狭い、と不倶戴天の仇敵から指摘され、ルイズはぐぐ…と悔しげに顔をゆがませながらも押し黙る。シエスタも自分にも当てはまることになる、それゆえにサイトから嫌な目で見られるのを恐れ、渋々ながらも黙った。サイトは思わず無償の優しさを見せてくれたキュルケに涙を流しかけた。
「ダーリン、なんでこの子にこだわるのよ?」
「それは…」
彼は視線を、一瞬眠っているハルナに向ける。
「この娘…俺の故郷のクラスメートなんだ。俺の間違いじゃなければ、だけど」
「サイトのクラスメートですって…!?」
サイトは、ルイズによってこの世界から呼び出される直前までのことを語った。
ハルケギニアに来る直前、自分がクール星人という宇宙人に襲撃を受け、彼女と共に一度は宇宙船に無理やり連れ込まれたこと。それをGUYSの協力を得て、少なくとも彼女だけは先に脱出させることができたということ。その直後、宇宙船の爆破と同時に召喚のゲートへ飛び込んだことでルイズの使い魔となり、一命を取り留めたということまで簡潔に述べた。
「なるほど、顔なじみかもしれないのか。だとしたら放っておくことができなかったのもうなずけるね」
いつの間にか会話に入ってきたギーシュが、適当に相槌を打つ。
「しかし、平民にはもったいないほどの可憐な顔をしている。僕の専属召使にしてあげなくも…ウボァ!!?」
当然のことか、ハルナに色目を使ってきたのを察知したサイトがゲン直伝の正拳突きで顔面をぶん殴って気絶させた。
「その場しのぎで建てた話にしては出来過ぎてますね…」
シエスタもあまり信じたくは…いや、信じられない様子だったが、そういうことにしてあげる、ということでこれ以上追及はしなかった。しかし、冷静になってみればシエスタとしては興味深くはあった。自分の曾祖父フルハシと、想い人サイトとは同郷の人間。どんな人となりか知りたい。…最も、それゆえに自分にとってサイトをめぐる強敵となりうるという確信があったが。
「う…ううん…」
すると、ベッドで寝かされていたハルナから声が漏れだし、起き上がった。
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