ウルトラマンゼロ 絆と零の使い魔

□2章 小悪魔と蒼紅の月
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16 春奈-クラスメート-

M78ワールド、M78星雲光の国。
「ゼロの行方はまだ掴めないままか」
セブンがため息をつく。
宇宙警備隊本部にて、ウルトラ兄弟たちはゼロの所在特定を行っていたが、未だに確認ができなかった。それどころか、地球に向かっていたレオからの連絡がここしばらく途絶えっぱなしだった。
「すみません、セブン兄さん。地球に向かったレオ兄さんからの連絡も来てなくて…」
アストラが捜査の難航について謝罪する。地球付近の宇宙で兄と別れた後、クール星人の尋問に当たっていたアストラはそれを終わらせると、早速レオに連絡を取ってみたのだが、返信のウルトラサインが一向に返ってこなかったのだ。
「自分を責めるな、アストラよ。この宇宙は広い。いかに我々とて、すべてを把握することは不可能だ」
気に病むな、とゾフィーがフォローを入れた。
「だが、こうしている間にゼロに万が一のことがあれば…」
セブンが焦りを見せていると、ゾフィーは今度はセブンに向けて言った。
「セブン、レオに息子を預けたのはお前じゃないか」
そういわれて、セブンは黙る。責められているわけではない、ただ、我が子と自分の弟子を信じてやれ、ゾフィーがそう言ってくれている。それを察知しての沈黙だった。
信じてないわけではない。ただ、もしも万が一のことがあったらと思うと不安に駆られてしまう。たとえ人間でも、宇宙人でも、深い間柄の者のことを思うとそうなってしまうのが宇宙の摂理というものだろうか。

「もう、勝手に出かけたらだめだよ、シュウ兄!」
「…済まん」
ウエストウッド村に戻ると、シュウは珍しくエマからから怒鳴られてしまった。事実勝手にどこかに行ってしまっていたから逆らう理由がないので言われるがままだっため、言い訳はできない。すると、マチルダが二人の元にやってきた。
「実は、シュウに買い物頼んでたんだよ」と嘘をついた。
「そうだったら、ちゃんと言ってから出かけないとだめでしょ?」
「わかった、今後は気を付ける」
「つっても、必要以外の外出は控えないとね。この村、前に下種どもに狙われちゃったしな」
以前、村に人攫い目的で盗賊が現れ、テファが誘拐された時のことを思い出す。またいつかあのような輩が出てくるとは限らない。その時、もし自分が村から離れているとしたら、必ずしも駆けつけてこられるわけじゃないかもしれない。最悪、ティファニアたちの身に何が起こるのか…。ふと、シュウは村の庭でエマ以外の子達と戯れていたテファに視線を泳がせると、ちょうど彼女と目があった。すると、テファは何か後ろめたさでも感じたのか視線を逸らした。
「マチルダさん。話がある」
テファの奇行を奇妙に思いながらも、マチルダに小声で話すと、シュウは先に自室に戻った。村に戻ってから不思議だったのは、一番怒るはずのテファが叱ってこなかったことだった。先日村を真夜中に出てまで、姿を消していた自分を探していたはずの彼女がなぜ?
疑問に思いながらも、彼はベッドに座ってパルスブレイカーを起動し、『シークレットファイル』と名付けられたフォルダを開く。いつでも対応できるよう、ナイトレイダーが戦ってきた敵のデータを少し移していたのだ。カーソルを回し、ファイルナンバー23を示すファイルを開く。画像には、ネクサスと交戦するダークファウストの姿と、画像の傍らにファウストに関するあらかたの詳細が記載されていた。文末には、確かに『ウルトラマンに倒された』と記述されていた。事実この記録の戦いの後、ファウストの姿を世間で見たものはTLT関係者以外一人としていない。
(ファウストは…もう俺の世界で倒されたはずの個体。それが、なぜ今になって再び姿を見せた?誰かが甦らせたのか?それとも…別個体か?)
ふう…とため息を漏らし、「考えても仕方ないか」とつぶやいた。復活した個体だろうが、別の存在だろうが、それでも倒すべき敵であることに変わりない。こいつのせいでこの村にまで被害が及ぶことを防ぐためにも、次に現れたら必ず仕留めなくては。
「シュウ、話ってなんだい?」
ふと、彼の部屋をマチルダが訪れてきた。彼女の訪問と同時にパルスブレイカーを閉じた。
「…ティファニアたちはいないな?」
「ああ、今は庭で適当に相手してるよ」
なるべくテファには聞かれるのを避けておきたい会話のようだ。
「少し村をあけることが多くなると思って、あんたに聞いてほしいことがある。実は…」
話の内容は、シュウがタルブでの戦いの後、サイトとの連絡網を作るための相談についてだった。今後は、サイトの手も借りた上で行動した方が、自分たちの活動を円滑なものとできると考えた上での判断だった。
「…へえ。あんた手先が器用だったんだね。で、その機械と似た機械を繋ぐものを作るために、一度トリステインに行くってわけか」
機械工学というのがいかなるものかはよくわからないが、マチルダはシュウが物作りができる方であることはつかめた。
「その間、あなたには村に留まってティファニアたちを見ていてほしいんだが…済まない、やはり勝手だったか?」
「まあ、確かに勝手だとは思うさ。一応聞くけど、これもテファたちを守るためにも必要なことってことで、いいんだよね?」
「もちろんだ。ついでに、この話がうまくいって仕事を請け負うことができたら、王女からも給金をいただくつもりだ。そうすれば、あなたが手を汚すこともない。
せっかくだから村で休んでティファニアたちと触れ合うのもいいんじゃないか?」
「あんた…ちゃっかりしてるな」
それを聞くと、マチルダは笑みを浮かべた。この子は、実は盗人を働く自分のことを気遣ってくれていたのだ。むしろこの子の方が茨の道を歩いてボロボロになっているかもしれないのに。だから、以前にもかけた問いを二度もかけた。
「話変わるけど…あんたはそれでいいのかい?戦ってばかりじゃないか。前に正義の味方を名乗る気はないとか言ってたけど、どうして正義の味方のつもりでもないって言ってるくせに、自分の身を傷つけてまで、故郷でもなんでもないこの世界を守ろうとしてるんだい?まさか、三流勘違い貴族みたいに、『命より名を惜しめ』って、死ぬことを適当に美化してカッコつけたいわけじゃないよね?」
「前にも言ったと思うが…俺は、戦いから降りることはできない」
視線を逸らしながらシュウは言った。
「貴族じゃないから名前の高名さなんてどうでもいい」
「そりゃそうだね。じゃあどうしてさ?」
「…仕事だ」
いつぞや、自分はナイトレイダー、戦うために存在する…なんて言っていたけど、それと同じような言葉であっさりと片付けた。その、『なぜナイトレイダーとして、またはウルトラマンとして戦う』理由を尋ねてるのに、わざと逸らしている。
シュウはその理由を応えるつもりはなかった。一度聞かれたときだってそれ以上は聞くなって言ったほどだ。なのにまたこうして尋ねてくる。前はお互いに隠していることがあるからって、詮索してこなかったはずだが。
「そりゃ、あんたは黙ってればそれで満足かもしれないけどね、あたしとしちゃ納得できないわけよ。テファもね」
シュウの考えていることを先読みしたのか、マチルダはそう言う。
「あんたがいない間に、またあんたがいなくなったことに気付いたテファが、一人で夜道の危険も顧みずに探しに行ってたって聞いたら、そりゃもうこれ以上勝手にどっか行っちまうのを許していいのか疑問に思っちまうよ」
なるほど、さすがに妹分がその使い魔を心配して一人夜の危険も忘れて村を離れたりし田植え、一時行方知れずになったのなら、この人のことだから間違いなく心配した。
「しかも、あんたのこと知りたくて勝手にここの荷物をあさってたんだよ?本当はそういうことするような子じゃないのにね」
あいつ人の荷物を勝手に覗き込んでたのか…。危険な武器も入れてあるから、勝手にあさるな、と後で一言言っておくか。と思っているとマチルダはまだ話を続けていた。
「訳があって話さないのは、前に話した時から、盗賊やってるあたしもわかる。
ただ、これ以上自分を追い詰めるようなことは控えるんだね。その自己犠牲じみた考えが、あの子までも苦しめるから」
「…」
自己犠牲、か。心の中で呟いたシュウ。あの優しすぎて綺麗すぎるテファのことだ、確かに心苦しく思っても仕方ない。それに…自覚がないわけじゃない。
「だから、今更一人で村を出て行きましょうってのも、ナシだよ?あの子のことだから、これ以上苦しめないためにって理由で一人村を出て言ったら、逆にあんたのことを気にし続けて苦しむに違いないよ?あたしは、そういうのは避けたい」
マチルダは、実はこう考えていたことがあった。ティファニアが苦しむ姿は見たくないし、苦しむのは避けておきたい。そのための不安要素は排除した方がいいと考えた。ならシュウを、あえて村から追い出すことも考えた。でも、自分の提案でテファに使い魔を召喚しようとし、結果として彼が現れ、テファは彼を使い魔とした。なのに、都合が悪ければ捨てるだなんて、捨て犬扱いも甚だしい。まるで横柄な貴族そのものの行為に、元貴族でありながら貴族を嫌うマチルダは嫌気がさしていたからそれは避けていた。
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