ウルトラマンゼロ 絆と零の使い魔

□1章 光の使い魔たち
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0 使い魔-ファミリア-

私たちは、時々思うことがあるのではないだろうか。地球以外にも、人間と同じような知性と意思を持つ種族がいるということを。この宇宙は私たち人間の及びもつかないほど無限の広大さを秘めているから、「いるわけないじゃん」の一言で否定することは褒めていいのか疑問がある。
もしかしたら宇宙も複数存在し、私たちの生きる地球が存在する宇宙はその一つでしかないかもしれない。
私たちがこれから見る世界は、いるはずのないそれらの要素が実在すると言う仮定の上で展開される物語。
あなたたちは今からその世界を、体験することとなるのです。

紅と蒼。異なる二つの色で己の身を染め上げた月。その月が囲むようにまわっている星があった。
その星は、外見だけならば地球と非常によく似た星。緑あふれる自然と、青く澄み渡った海。私たちの生きる地球と比べると、全く科学的な力が及んでいない分汚れた部分さえもうけられない。
地球と特に異なるのは、人間だけではない。この星の知的生命体は耳の先がとがった人『エルフ』・翼をもつ人『翼人』など、多彩だ。そして人間を含めた彼らの多くが魔法という、ファンタジーの中でしか存在しえない力を行使することができるのだ。
後に異界の者たちからこの星は『惑星エスメラルダ(略称エメラダ星)』と名付けられる。
…しかし、見かけの汚れは見受けられなくても、内的な汚れというものはどこか存在する。
この星にも私たち人間と同様、知的生命体が存在する。そして古来より己と自らの同胞たちのため、自身の信じるもののため、互いに争い合っていた。権力を誇示するため、愛する人を守るため、理由は様々だ。

エスメラルダは狙われていた。
今、この星に…恐るべき魔の手が忍び寄ろうとしていた。


地球…。
この地球を覆っている化け物『スペースビースト』の恐怖から、人々を解放する特務機関として国家レベルを超えて設立された地球解放機構『Terrestrial Liberation Trust』略して『TLT(ティルト)』。
スペースビーストとは、宇宙から降り注ぐ『Χ(カイ)ニュートリノ』が地球に降り注ぎ、地球生物等に影響を及ぼすことで誕生する生物。奴らは恐怖の感情を糧とするため、人間を主な捕食対象として狙う危険すぎる存在だ。

5年前に奴らの祖ともいえる怪獣が飛来、新宿で大災害を起こし人々を恐怖に陥れたが、その時だった。銀色の巨人『ウルトラマン』が現れ、奴を倒したのは。しかしその怪獣が消滅した後、地球各地ではその名残ともいえる正体不明の生物…つまりビーストが現れ人を人知れず襲うようになった。ビーストに対抗するため人類はTLTを設立し、ビーストを撃退し人を守ることを使命とした。だがビーストへの恐怖が、また更にビーストへの恐怖を生み、それがビーストをおびき寄せ狂暴化させてしまうことを知ったTLTは、『MP(メモリーポリス)』に記憶の改ざんを行わせ、被害者からビーストへの恐怖心を消すことを生業とした。だが人間の恐怖はそのセーフティを破り、ビーストが活発化していくうちに記憶消去が間に合わなくなっていく。やがてそれが限界に達した2009年秋、ついに強大なる敵が現れ、世界を荒らしてしまう。
しかしこの戦いは、再びウルトラマンが人々の祈りを聞きつけるかのごとく現れ、見事その敵を撃退したのである。
それから約1年。ビーストは絶滅こそしていないが、当時からのTLTの主戦力部隊である対ビースト迎撃チーム『ナイトレイダー』の活躍で被害は0とまではいかなかったが最小限に止められていた。
日本支部第3基地。神奈川県内にあるダムに偽装した巨大基地『フォートレスフリーダム』。
水底に存在するその基地はSF映画に登場する要塞さながらの風格があった。その基地のコマンドルームには、5人の男女で構成されたナイトレイダーが待機していた。
テレビ回線につなぎ、ビーストの被害状況を見ているのは隊長の『和倉英輔』。ビースト殲滅に使用する銃火器の手入れをしている、クールな女性は副隊長の『西条凪』。ネイルアートで暇をつぶしている女性はこのチームのムードメーカー『平木詩織』。ノートPCでビーストの特徴をチェックしている男性は若々しさと勇敢さが最も目立つ『孤門一輝』。そしてもう一人、凪とどこか似たような雰囲気を漂わせる、まだ10代後半に見受けられる青年が別室の射撃場で的を銃で撃ちぬいていた。
すると、待機していた各隊員たちに向け、警報がフォートレスフリーダム中に鳴り響く。
『第三種警戒発令。ナイトレイダースクランブル。ナイトレイダーにスクランブル要請』
全員集合し、ヘルメットとプロテクターを装着して特殊銃器『ディバイトランチャー』を手に、エレベータブースに駆け込む隊員達。左から和倉・凪・孤門・青年・詩織が入る。
「出動!」
全員が入るのを確認し、和倉が高らかに宣言、五人は勢いよくコマンドルーム真上に用意された、飛行兵器『クロムチェスター』の格納庫へ射出された。
チェスターαに凪、γに詩織と孤門、βに和倉、Δに青年が搭乗する。満月の下、ダムに偽装された発進ゲートが開いて、4機のクロムチェスターが発進した。

目的地は廃工場。そこに今回の殲滅対象がいた。
カブトムシとゴキブリに酷似した『インセクトタイプビースト・バグバズン』。
今の声は若き作戦参謀長、CICこと『吉良沢優』。彼はビーストの姿を絵に描いて予測することから『イラストレーター』というあだ名でも呼ばれる。彼のIQは非凡な数値を秘めており、これまでの戦いで何度も的確な指示を与えることでナイトレイダーたちを支持してきた。
『ターゲットは一度冷凍弾で凍らせ、ナパーム弾で一気に仕留めてください』
今回も同様に彼の指示が、和倉に通信越しに伝えられた。
「了解。凪は冷凍弾、『黒崎』はナパーム弾を用意しろ!孤門と詩織は俺と一緒に敵の牽制だ!」
「「了解!」」「「了解!」」
五人はヘルメットに装備されたグラスを下ろし、バグバズンにディバイドランチャーを向けると、孤門と詩織・和倉はディバイドランチャーによる集中砲火でバグバズンを攻撃した。
「ギオオオオオ!」
「冷凍弾準備完了!」
「ナパーム弾のセッティング完了!」
凪、そして『黒崎』と呼ばれた青年はディバイドランチャーにそれぞれ指定された弾丸をセットした。
「よし、撃て!」
まず凪が冷凍弾を発射、バグバズンの体はたちまち凍りついていった。
「止めだ…!」
青年はバグバズンの体が凍りついたのを確認すると、トリガーを引いてナパーム弾を発射、バグバズンを木っ端微塵に吹き飛ばした。
ヘルメットのグラスを上にあげ、和倉は砕け散ったバグバズンの姿を確認した。跡形も残っていない。任務完了だ。
「状況終了」
『任務ご苦労様です。ターゲットは消失しました。帰還してください』
吉良沢は和倉に通信で伝える。
「了解。各自、フォートレスフリーダムに帰還せよ」
「「「「了解」」」」
五人はクロムチェスターに再び搭乗し彼らの本拠地に帰還した。

青年は帰還後、コマンドルームにてコーヒーを啜っていた。
「候補生からナイトレイダーになってしばらく経つけど、慣れたかしら?」
凪が目の前に座る青年に尋ねると、青年はコーヒーカップを置いて口を開いた。
「…大丈夫です。問題ありません…」
青年はコーヒーを飲み干すと、すくっと立ち上がった。
「どこへ行くの?」
「今日は時間が空いてるので…町の方へ。すぐに戻ります」
部屋を後にする理由はプライベート的なことのようだ。彼はそう言ってコマンドルームを後にした。凪は、他者を寄せ付けたがらないような雰囲気を漂わせる彼の背中を、ただ黙って見送っていた。
「…ねえ、孤門君。あの子のことどう思う?時々プライベートでも会うんでしょ?」
詩織が完成したネイルを孤門に見せながら尋ねる。
「そうですね…なんと言えばいいでしょうか」
孤門は何と答えるべきか考え込み始める。
「休みの日は僕と一緒に憐の遊園地でバイトの手伝いを黙ってやってくれているんですが、あまり心の底から打ち解けているとは言えないですね」
「…そうだよね」
詩織の性格だと『付き合いが悪そう』と一言きつい評価を下しそうだが、何かしら事情を知っているためかそれ以上言わずに納得した言葉を吐く。
二人がそう会話する中、和倉は自分の部下たちを見渡す。
(孤門はビーストの分析を熟す様になって成長が見受けられる。入隊してからこれまでの戦いを乗り越えてきたおかげだろう。凪も憎しみを克服してより冷静さを保てるようになった。詩織ももともとすぐれていた銃器の扱いもうまくなり、『石掘』の時のショックから立ち直ったとも見える。だが…)
青年の去ったコマンドルームの入り口を、和倉はじっと見る。すると、今度は黒い髪に白いメッシュのある男性がコマンドルームを訪ねてきた。
「あなたは…海本博士、どうしてこちらへ?」
和倉が、訪れる人としては思わぬ人物だったためか目を丸くする。
「休暇をとれたので、今日は彼の様子をこの目で見に来たのです。突然の訪問をお許しください」
海本は謝罪を入れ、頭を下げる。ナイトレイダーにとって海本は階級が上の存在、急な訪問と謝罪に戸惑いながらも、座り込んでいた凪・詩織・孤門は立ち上がって海本に向けて敬礼する。それに応え、海本も頭を下げる。
「彼は、このチームでうまくやっているでしょうか?」
この海本という男性は、本名は『海本隼人』。北米本部で勤務している研究者である。TLTが所持する兵器の多くは、『来訪者』と呼ばれる宇宙生命体から与えられた知識を借りたもので、海本は彼らと人類を繋ぐ者の一人だ。しかしそれを仕事とする立場は決して楽なものではなく毎日が多忙だ。そんな彼が北米からわざわざ日本へやってきたことには理由があった。
和倉は海本からの質問に対してこう答えた。
「ええ、任務を忠実にこなし、我が部隊には理想的な人材と言えます。ただ…」
「ただ…何か、問題が?」
「時々自分の身を削りすぎるところが見受けられます。必要以上に訓練場にこもり、任務の際人質に取られた被害者を救出するために一人で飛び出すなど…。
これは私の勘なのですが、彼は心に闇を抱えています」
「…そうですか」
海本はどこか沈んだ声で呟く。すると、今度は初老で細身の男性がコマンドルームを訪問してきた。
「海本博士。立場上あまり一人で出歩いては困るのですが」
「松永管理官」
失礼したと海本は、松永と呼んだ男に頭を下げた。
松永要一郎。TLT日本支部の管理官を務めている。ビーストから人類を守るためならば自らの手と心を汚すことをいとわない覚悟を秘めた人物である。時折冷酷な手段さえも使うことがあるが、TLTの人間は彼のことを嫌悪するほどには思っていない。
「R7性因子。彼は他の隊員たちよりもそれがずば抜けて高かった。それ故、過去の犯罪行為さえももみ消してまで、新たなナイトレイダーチーム編成のために我々TLTは彼が必要だったのです」
ビーストが放つ振動波は、実は人類にとって精神的に有害な波動。R7因子とはそれに対する抗体のようなもの。ナイトレイダーたちは一般人と比べてそれが高いためにビーストと戦うだけの肉体を手に入れることができた。あの青年も例外ではない。しかし気になることがある。『過去の犯罪行為』とは、一体どういう意味だろうか。
「彼の黒く染まった過去は、私の責任です。私は生みの親同前の身でありながら、あの子に何もしてやれなかった。いえ…何もしなかったと言う方が正しいでしょう。私は、あの子の存在さえ忘れていたのですから」
生みの親を自称するこの海本という人物は、青年とは深いかかわりにあるようだ。
「海本博士…」
悔いるように沈んだ顔を浮かべる海本に、和倉は複雑そうな表情を露わにする。
「すみません。言ったところで、私の罪が消えるわけではないというのに…」
「いや、お気になさらないでください」
「彼は今、どこに?」
顔を上げた海本は、青年がどこへ行ったのかを訪ねと、その問いに対して凪が立ち上がって答えた。
「黒崎隊員ならたった今、外出しました。恐らく、『墓地』に」
「墓地…」
『墓地』という単語のせいか、より聞こえのいい会話ではなくなった。あの青年が墓地へ向かった。誰か忘れたくない大事な人がいるということなのだろう。
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