テイルズオブエクシリア外伝

□ヴィクトルside
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数人くらいのアルクノアを退け、俺とジュードは先頭車両にたどり着いた。だが、そこで思わぬ人物と鉢合わせした。
一瞬だけ黒い何かをまとったように見えたが、そこにいたのはなんと兄さんだった。両手には、いつも持っている金と銀の時計がある。そして、兄さんの近くには黄色いラインの走った鎧を着たアルクノアの男が倒れていた。
「ルドガー、どうして…?」
「兄さんこそ、どうして!?」
「仕事だよ…」
仕事、兄さんはクラン社のエージェントだ。だとしたらビズリーの護衛だろう。でも…。
「…じゃあ、今のは……何?」
俺は動揺を隠しきれなかった。一瞬だったが確かに間違いなく、兄さんはまるで人間とは思えない姿に変身していた。恐る恐る尋ねると、兄さんの表情が曇った。
「見たのか…?」
その時だけ、眼鏡越しに見えるはずの兄さんの目がレンズに反射した光で見えなくなった。
「ふふふ、私はいい部下を持った」
その声と共に、後部車両に残っていたはずのビズリーとヴェルの二人がやってきた。
「さすがはクラウンエージェント・ユリウス。仕事が早い」
「戯れはやめてください。社長」
「しかしこんな優秀な弟がいたとは。大事に守ってきたようだな。優しい兄さんだ」
「…当然だろう!」
「!?」
逆鱗に触れたのか、突然兄さんはビズリーに向けて剣を振るい、襲いかかってきた。俺は驚いてその場に立ち尽くした。だが、ビズリーは少しも怖気付きもせず、少し首を後ろに下げただけでそれを避けた。まるで兄さんが、自分に牙を向けることをあらかじめ知っていたように、ビズリーは続けた。
「いいのか?弟の前で」
「…!」
兄さんは一度後退すると、双剣を床に突き刺して両手の時計を前に突き出した。一体何をする気なんだ?
が、その時だった。倒れていたはずのアルクノアの兵士が起き上がって、俺たちに銃撃してきた。とっさに俺はビズリーの前に立ち、剣でなんとか銃弾を防ぎきれた。
「ほう、素晴らしい…」
「我々は認めん!リーゼ・マクシアとの融和など!」
「しまっ…!」
その時、兄さんに向けて銃が打ち込まれ、その拍子に手に持っていた金の時計に弾が当たって、時計は宙を舞い上がった。
なんとか俺はそれをキャッチした。

だがその時、俺の体に異変が起こった。

「ぐあああああああああああああ!!!」
「がは…」
金色の光に包まれ、俺は肌が灰色に染まり、両腕に黒い鎧のようなものを纏っていた。その時の兄さんやジュードは驚いていたに違いない。明らかに人間とは違う姿だったのだから。そして右手には、同じ作りの槍が握られていた。何が起こったのかわからず、がむしゃらに俺はその槍を投げ飛ばすと、アルクノア兵に突き刺さり、彼は槍を縫い針代わりに、壁に縫い付けられた。

そしてさらに異変が起こった。空間がねじれ、俺とジュード、ルルはその中に巻き込まれてしまった。

気がつくと、俺とジュードとルルは最初に搭乗した列車の後部車両にいた。妙に光や辺りの景色の色が、赤みがかったようにくすんでいるように見えるのは気のせいだろうか。
「い、今のは…?」
ジュードも何が起こったのかわからないようだ。
俺は自分の手を見た。さっきまで黒いものを纏っていた両腕は元に戻っていた。兄さんが落とした、金の時計が握られている。
これを握った途端、俺はたしかに…。
ジュードはきっと俺を恐れるだろう。あの姿は明らかに異常だ。そう思わない方が…。だが、ジュードは優しく俺に語ってくれた。
「僕、不思議なことに縁があって。四大精霊とか、精霊の主とか、ね」
すると、ジュードとここで会った時のようにまたアルクノア兵が現れた。咄嗟に俺たちは身構えたが、その兵は倒れ出す。
「ヴェランド頭取、こっちです」
「お見事ノヴァ君。警備の者にも見習わせたいものだ」
そして、倒れた兵士の後ろに、俺の同級生の女の子が棒を持ってそこに立っていた。さらに禿げた(これは失礼か…)中年の男が現れた。
「このセリフ…」
ジュードも俺も奇妙に感じた。まるでデジャヴ。あの頭取は、ビズリーがジュードにしたように拍手までして現れてきたのだ。
「ノヴァ!?」
「ルドガー!こんなところで!」
ノヴァも俺の姿を見て驚いていた。というか、ノヴァってアルクノア兵を倒せるほどそんなに強かったのか?聞いてないんだけどな…。
「もしかして、ルドガーの知り合いですか?」
ジュードが尋ねると、ノヴァが頷いた。
「同級生だよ」
すると、列車がガタンと揺れた。さらに速度が、さっきまでと同じように加速しだしたのだ。
「とにかく列車と止めないと!兄さんも…」
もう一度先頭車両に行けば、兄さんやビズリー、ヴェルもいるかもしれない。
「他の列車の状況はわかりますか?」
ジュードがノヴァに尋ねた。
「え、ええ。白いコートのテロリストが乗客を無差別に…」
白いコート、その言葉に不吉さを感じた。
…いや、そんなわけがない。あの時ビズリーに切りかかってはいたが、あの兄さんに限って。
「テロリストは先頭車両を占拠したみたい。気をつけてね、ルドガー」
「社員たちを残してきてしまった。頼む。助けてやってくれ」
「わかりました」
「よし、もう一度先頭車両に行こう、ルドガー」
「ああ」
俺とジュードは、もう一度先頭車両へと急いだ。
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