アンリミテッドデザイア(完結)

□#1
2ページ/2ページ

一方、フェイトも空港内の炎をかいくぐりながらもう一人の少女、スバルの姉であるギンガを探していた。
空港を天井から突き破っている吹き抜けの周りを占めている螺旋階段。目を凝らしながらそのあたりを見渡している。
「どこ?どこなの…?」
一体どこにいるのだろうか。
見渡してもどこもかしこも火・火・火。
ギンガの特徴はスバルとは対照的なロングヘアにリボンをつけているとは聞いたが、そんな特徴を持つ人物の姿さえ見当たらない。
が、その時…フェイトの耳に遠くから聞こえた悲鳴が届いた。
「きゃああああああああ!!」
「!」
こっちか!聞こえてきたのは虹の方向。方向転換し、彼女は悲鳴の聞こえた方へ向かった。

そのギンガは、非常に危険な状態にあった。
彼女の周りを、見たこともない奇怪なナメクジのような化け物が囲んでいる。
人の恐怖を求めてさまようスペースビースト『ブロブタイプビースト・ペドレオン』。まずいことに、ギンガの恐怖の感情に反応して寄ってきたのだ。
「…い、いや…こないで…」
ギンガは恐怖のあまり立ちあがって逃げることもできず、尻を引きずりながら後ずさるばかり。気持ちの悪い水音を立てながらペドレオンはギンガに近づき、ぱっくりを大きく口を開けた。
「キュオオオオオオ!!!」
「いやあああああああああ!!」
が、そこへなんとかフェイトが駆け付けた。
「撃ち抜け…ファイア!」
「ギエエエエ!!」
彼女が形成した金色の魔力弾はギンガの周りを囲んでいたペドレオンたちに直撃、魔力弾を受けたペドレオンは風船のごとく破裂した。
周りにペドレオンがいなくなったことを確認し、彼女はギンガに駆け寄る。
「大丈夫!?」
「う…うん」
恐怖のあまりさっきまで泣いてしまったので顔は涙でぬれ落ちていた。ぐしぐしとふき取り、頷いて立ち上がった。
「さ、急いで脱出するよ。しっかりつかまって」
ギンガを抱きかかえ、フェイトは直ちに飛行、脱出を開始した。
「お姉さん…」
ギンガはフェイトの腕の中で彼女に声をかけた。
「あの、妹は…スバルは?」
「大丈夫。さっき私の友達が助けたって。心配ないよ」
安心させるように優しい笑みを浮かべるフェイト。すると、何か思い出したのかフェイトはギンガにあるものを手渡した。
「これ、なに?」
それは、フェイトがあの石柱の前で拾った不思議な石だった。
「願いをかなえてくれる石。きっと帰れるってこれに願いを込めれば、絶対にお家に帰れるよ」
「あ、ありがとう…」
さっきまの恐れるだけだった顔から、笑顔を取り戻したギンガを見て、フェイトも元気が出た。
再び吹き抜けを上昇しつつ、天井に空いた穴から外へ出ようとしたが、ここで予想外の事態が起こってしまう。
彼女たちが飛行している吹き抜けの底…一階から彼女の足へと不気味な触手が絡み付き、彼女を再びフロアへと引き寄せた。
「!?」
触手に引っ張られてバランスを崩し、ギンガとともに三階のフロアの床の上にぶつかって転がってしまう。
「きゃ!」
「っう…!」
転がった状態で壁に当たり、止まったところでフェイトは立ち上がった。その時、彼女は闇の書事件以来のとてつもない恐怖を感じた。
見たところ、さっき撃破したペドレオンの同族だろう。そう、ペドレオンなのだが…
「キュオオオ!」
あまりにも巨大だった。さっきまでは1メートル弱程度の大きさだったというのに、今度のは、30メートルもの巨体を誇っていた。その証拠に吹き抜けがペドレオンの巨体で埋め尽くされていた。
実は、まだ生き残っていた小型のペドレオンたちがひそかに一体へ合体し、この巨体へと進化したのだ。フェイトはいざ自分の愛機『バルディッシュ』を握り、戦闘態勢に入る。
が、ここでさらにまずい事態が彼女に降りかかる。
狡猾にもペドレオンは触手でいつの間にか捕まえていたギンガを持ち上げ、自らの盾としているではないか。
こんな怪物にも知性があるとでもいうのか。しかもこんな汚い手口を…。
ペドレオンはギンガを触手でがっちり捕まえて離さない。お前が攻撃したらこのガキの命はない。まるでそう言っているかのように。
ギンガを人質にとられ、フェイトはただ悔しそうにペドレオンを睨むしかできなかった。醜い本性通りの、その醜い怪物の姿を、穴が開きそうなくらいに。
「お、お姉ちゃん…!」
せっかく笑顔を取り戻したギンガの顔が、また恐怖の色に染まってしまった。
「助けて…」
「待ってて!必ず助けるから…!」
とは言ったものの、この状況をどう打開すればいい。あんな巨体の化け物を魔法で撃破することは、魔力を絞ればできるかもしれない。だが彼女が本気を出せば、簡単にこの空港の大半を破壊してしまいかねない。彼女の魔力はそれだけすごいのだ。
打つ手は、もはやないに等しかった。
(助けて…!)
ギンガは泣きながら、フェイトから手渡された不思議な石を握りしめた。
すると、彼女の願いを受け入れたかのように、石は緑色の光を放ちだした。あまりのまぶしさにフェイトは目を閉ざす。
(この光は…?)
その光はや空港中に満ち、やがて天へと上って夜空に暗雲を出現させ、その中へと飛び込んでいく。
そして、暗雲の中心より一つの青い光がペドレオンの頭上から落ちてきた。
「ギィイイイイイィィイ!!」
光に押しつぶされたペドレオンは跡形もなく消え去った。
謎の光がだんだんと消え始めていることを悟った彼女は、ゆっくりを目を編めた。
「!!!!」
彼女は思わず声をあげそうになった。
光で辺りがほとんど見えない。ただ一つ、青い光を逆光に、10メートルほどの一体の巨人が自分を見下ろしていた。
フェイトは目を擦った。夢ではないかと思ったが、それははっきりと見えたような気がした。
その巨人は光が消えると同時に、跡形もなく姿を消した。残ったのは、自分の目の前で気絶した状態で倒れているギンガ。
彼女を見て、少しあわてた様子で抱きかかえたフェイトは、彼女を乗せて空港を脱出、無事ギンガも救出された。
帰る途中、フェイトはあの青い巨人のことを思い出していた。
(私は、彼をどこかで見たことあるような気がする…)
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ